ふわとろ親子丼
柱の陰から出た。
こんな所に隠れているより、カメラの死角にでも立って、スマホを眺めていた方がマシ。そんな気がしてきた。
車に乗り込まずに、運転前にスマホチェック。
さっきからそんなヤツが何人もいた。
だから俺もそうする事にした。
ここにコソコソと隠れているより、そういう行動を取った方が目立たないかも知れない。
頭の中はずいぶんとすっきりしていた。
興奮しているわけでも、冷めているわけでもない。
何の感情も湧いてこない。
善良な市民を襲う。
南洋の街では、英雄と言われる超有名人を ……
その事に迷いも戸惑いもない。
“ 俺は獣のようだな ”
ただそう思うだけだ。
メールを開いた。
≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡
〜 あらっ (゜o゜; 珍しい
あなた発信のメールって初めてよ …たぶん
これまでず〜っと返信しか貰えてなかったもの (。ŏ﹏ŏ)
何のお話かしら …
ちょっとコワイ感じ (゜゜)
会う日時は前日に連絡いただければ、貴さんの都合に合わせます
場所は明和通りの「鈴本珈琲」にしていただけると助かりますけど …
ところで ……
最近、優深が料理に目覚めちゃって大変よ
今、“ ふわとろ親子丼 ” に挑戦中なの
優深も、ぱくぱくと夢中になって食べる貴さんの顔が忘れられなくなったみたいよ ……気持ちはすごくよくわかる〜 (^^♪
また是非食べてあげてね (^^)v
ではでは …日時の連絡待ってるね (^^)/ 〜
≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡
・・・
俺はスマホに目を落としながら、クラウンに近づいて行った。
カメラの位置は頭に入っていたが、あまり気にしていなかった。
俯いていれば、それだけで大丈夫だろう。
別に逃げ隠れするわけじゃない。
・・・
大きな柱にもたれて、何となく祥華のメールを眺め続けていた。
画面左上の時間表示が23時15分になった時 ……
千葉正利の大きな体が、駐車場入口に現れた。
戸波オーナーが、車まで見送りでもするようなら厄介だな ……心配はそれだけだったが千葉は一人のようだった。
俺は隠れもせず、柱にもたれたままスマホに目を落とした。
千葉が歩いて来る。
俺の存在には気づいているはずだ。
特に警戒もしていないであろう。
5メートル。
・・・今だ
俺はスマホを耳に当てるふりをしながら、左手をソフトケースに突っ込んだ。
2本のライトを掴んだ。
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