地下駐車場

 

ゆっくりとファミレスを出た。

慌てる必要はない。

まさか30分以内で、出て来る事はないだろう。

通りを渡り、トナミスポーツの看板の横から敷地内に侵入した。


循環浄化装置の奥に地下に下りる階段がある。

ここから地下駐車場に下りるのは、実は二度目だった。


一年ほど前に、ここの駐車場で会員同士の殴り合いの喧嘩があった。

スタッフからの110番通報で、地域課の係員が現着した時には、血まみれの男が一人倒れた状態で、相手の男は行方不明になっていた。

これを地域課が暴行逃走という凶悪事案として、事を大きくしてしまった為に、強行班が出動する事になったのだ。


結局知り合い同士のただのつまらん喧嘩で、行方不明だった男も自宅で顔を腫らして寝込んでいただけだった、というお粗末な顚末だった。


この時に俺が戸波オーナーに事情を聴く事になり、戸波自身がプロ野球選手だった事や、千葉正利との関係なんかの自慢話まで聞かされる羽目になったのだ。

苦痛なだけの長話だったが、その時の情報がずいぶんと役に立つ事になった。



ソフトケースをぶら提げて地下に下りた。

特に誰かに見られる事も気にしていなかったが、誰ともすれ違わなかった。

柱の陰から駐車場の様子を確認した。


夜の10時過ぎ。

車が5台続けて地上に駆け上って行った。

スポーツジムから駐車場へ、次から次に人が降りてくる。

この時間が帰宅ラッシュか。

すぐに車に乗り込まずに、スマホと睨めっこしている男が二人。

車に乗り込んでから、発車せずにスマホと睨めっこしている女が三人。


こんな状況なら千葉がここに現れる頃には、駐車場もガラガラになっている事だろう。

別にこの状況でも、襲う事は出来る。

暴力現場に直面した時、人はそれほど簡単にそこには近寄れないものだ。

もし、無謀な正義感に駆られて近付いて来るヤツがいても、ライトを向けられたらまず怯む。


刑事はそういう場面を嫌と言うほど経験している。

こんな凶暴そうな大男を、咄嗟に取り押さえようとするのは、やはり警察官しかいない。


〈 営業時間 ⇒ 6時〜23時30分〉と書かれた横断幕が駐車場の壁に張ってあった。

ずいぶんと長い営業時間だが、今はフレックス導入や在宅勤務やらで、早朝や深夜のスポーツジム需要も高いのだろう。


デニムのポケットに差し込んだ小型双眼鏡を取り出した。

カメラの位置を確かめる。

これも経験上、だいたいの察しは着く。

これまでどれだけ、監視カメラの映像と睨めっこして来た事か。

どう動けば、面バレしないか。

映像だけで100パーセントの面割れなんて、そうそう出来るものではない。


大きな柱の向こう側。

銀色のクラウンが見えた。

30分ほどしたら、あの柱に移動しよう。



“ ブブッ ”



・・・



バイブ音。



・・・祥華か

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