合法的に償う道はない



暴力からは何も生まれない。




職を失い ……


仲間の信頼を失い ……


祥華と優深を完全に失う。


失うものばかりだ。



しかし ……



俺がそれを失う事で、大沢がグランドに戻れるのなら ……


それでヒロの “ 望み ” が叶うなら ……



失う価値はある。



〜 千葉の立場がどうとか、後ろ盾がどうとか、大学生とのトラブルがどうとかが、今分かってもたぶん “ 親の歪んだ情動 ” ってヤツは変わらんだろうな 〜



石神さんの言う通りだ。



今さら俺が “ 昔の暴力 ” を大沢やヒロ ……千葉に懺悔しても、何も取り戻せない。

何も変わらない ……いや、彼らの苦しみが増すだけの事かも知れない。


俺には ……合法的・・・に償う道は ……ない。



ならば ……



カッコつけずに千葉を ……千葉正利を入院させちまえばいい。


大怪我を負わせる。


相手は60過ぎのオヤジ、容易い事だ。


別に逃げ隠れするつもりもない。



だが ……


出来れば ……


日本シリーズが終わるまで ……


そうすれば、心置きなく自首出来る。



誰にも顔を見られずに、瞬時に千葉を病院送りにする。


出来ればそうしたい。


だから、状況次第では日を改める。


焦る必要はない。


未遂ですべてを失うような事だけは避けたい。




足元を見た。


真新しいスニーカー。


有名シューズメーカーの白いライン。


どう見ても、普通のジョグシューズ。


軽いし重心が先端に集中しているので、慣れると意外と動きやすい。


爪先に鉄板が入っている。

いわゆる安全靴というやつだ。


建設現場の聞き込みで、たまたま最近知った事だった。

作業員が皆、普通のスニーカーを履いていた。

ふと、先端が破れて鉄板がむき出しになっているスニーカーを見かけて、それが安全靴だという事に気づいた。


これならひと蹴りで膝の皿を砕くことが出来るし、腱を切る事も可能だ。

一瞬で歩行不能に陥らせる。



そして ……


このソフトケースの中には、二本のLEDライトが入っている。


リレー競技で使うバトンのような形状のこのライトは、軍用の強力ライトだ。


長さ20センチ、直径3センチと細みながら、重量が700グラムもある。

そして3200ルーメルンの発光量は、車のヘッドライトをも凌ぐ。

100メートル先の暗闇を白昼化する事が出来る。


これを至近距離で顔に向けられたら、必ず身動き出来なくなる。

そこですぐさま両膝を砕き、ライトを使って左右の鎖骨を叩き折る。

その際、もう一本のライトを後方に向けておく。

前後にこれだけの光量を発すれば、監視カメラには光と影しか残らないだろう。


千葉は恐らく3ヶ月ほどの入院になる。





シルバーメタリックの高級車が、トナミスポーツに入って行った。



クラウンG-Executive。



・・・やっぱり来た

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