華麗なる一族


10月8日

 

今夜で五日目になる。


ファミレスのこの席からは、「トナミスポーツ」の駐車場入口がはっきりと見えた。


ここ五日間、千葉は姿を現さなかった。

遠征以外は三日と空けずここに通って、汗を流しているという。

ここのオーナーの言葉だから、まず間違いはないだろう。

ただ、時期が悪かった。

ペナントレースの優勝を決めて、クライマックスシリーズを控えたチームの監督がそうそうスポーツジムに来られないであろう。

明後日からはいよいよファイナルステージ。

今日あたり、そろそろ来るんじゃないか。

そんな気がしていた。


スポーツジム、トナミスポーツのオーナー戸波修太郎は元プロ野球選手だった。

ホワイトベアーズ監督、千葉正利とは選手時代のチームメイトで今でも親交は深い。


千葉は10年ほど前に、戸波がここでスポーツジムを開店した時からずっと通っている。

千葉のような有名人が通うには、庶民的なイメージのジムだが千葉は案外、見栄も気取りもない庶民的な男のようだった。

おかげで地下駐車場なら、会員でない俺でも簡単に侵入出来る。




千葉正利。

弱小だった前身のホワイトベアーズで300勝を挙げた伝説の投手。


若干二十歳の時に、当時大学生だった蓮見知遥と結婚。授かり婚だった。

当時、挙党のプロデューサーと呼ばれていた自民党のエース蓮見泰嗣の末娘との結婚は世間を大いに騒がせた。

蓮見泰嗣は後に党の幹事長となり、現在もいわゆる政界の首領として、国の運営に巨大な影響力をもたらす重鎮だ。

蓮見の次男は警察庁の超エリート、蓮見健一郎。

現在、静岡県警本部長。

俺の暴走さえ無ければ、今頃は長官だったか。


千葉の長女は人気の局アナである。

現在はフリーで、キー局の報道番組を背負うほどの知性派アナウンサー。


まさに華麗なる一族。


その中に一人、暗闇で蠢く存在がいた。

千葉正利の長男。

千葉洋平。




携帯でメール画面を開いた。

天野祥華。


優深と3人のラインなら珍しくもないが、祥華だけにメールを送るなんて、ずいぶんと久しぶりだった。

このやり取りは優深に見られるわけにはいかない。


もう優深とは会わない。

月いちのデートも終わりにする。

祥華に直接そう告げて、二人とは完全に縁を切る。


二人を犯罪者と関わらせるわけにはいかない。




〜 話したいことがある。

電話でなく、直接会って話がしたい。

済まないが時間を都合して欲しい。〜



送信 ……




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