邪魔者を排除
「20年も昔の事だ。その当時、千葉の立場がどうとか、後ろ盾がどうとか、大学生とのトラブルがどうとかが、今分かってもたぶん “ 親の歪んだ情動 ” ってヤツは変わらんだろうな。ただ、当時キャプテンだったシモなら何か事情を知ってるかなって思ってな ……」
「20年ですからね。いろいろボヤケてて特に事情って心当たりもないですね」
・・・それならどれだけ楽か
「あまり湿っぽい事は言いたくねえ。この俺が ……こんな事になっちまった杉村の “ 望み ” とか “ 想い ” なんてものを語る資格もねえしな。ただ千葉が、目が治った今の秋時を正当に評価してくんねえもんかなって、最近そればっか考えちまってな」
そう言って、夜景に顔を向けた石神さんの眼色は十分湿っぽかった。
「深町さんが監督を続けていたら ……」
俺は思わずそう漏らしていた。
「ふっ …… あの人はあの人で、秋時や杉村には人一倍の思い入れがある。秋時が二度目のアキレス腱をやった時、監督を辞めて二軍のトレーナーに戻るなんて、めちゃくちゃをしたのも秋時を完全に復活させる為だったんだ」
「やはり ……そうでしたか」
一軍監督から二軍トレーナーへ ……それを聞いた時、そんな気はしていた。
深町監督は俺たちと一緒に南洋大を卒業し、ホワイトベアーズの監督に就任した。
世間が驚愕する異例の抜擢だったが、そこから弱小しろくまの黄金期を作り上げ、リーグ5連覇という偉業を成し遂げる。そして大沢の二度目のアキレス腱断裂を負ったシーズン後に突如辞任、古巣である二軍トレーナーに18年ぶりに復帰したのだった。
「秋時の怪我がなけりゃ、監督は深町さんからヘッドコーチだった結城か佐久間に繋いで水野監督ってのが久住GMのシナリオだったはずだ。それが深町さんが急遽辞めちまったんで、GMも焦ったんだろうな。千葉正利なんて男を監督にしちまった ……3年契約の3年目に8年ぶりのリーグ優勝となりゃ、もう切るに切れねえ ……まず来季も監督続行だ。大沢は移籍するか引退するかしかねえだろうな」
「ヒロの仲間たちが、ヒロを励ますために老体に鞭打って必死に頑張って ……優勝したら優勝したで、ヒロが一番望んでいる大沢の復活の道が絶たれる ……」
「そういう事だ ……おっもう10時だ。そろそろ帰ろうか。昔話に付き合わせて悪かったな 」
石神さんがそう言って、テーブルの片隅にある伝票に手を伸ばした。
・・・大沢
深町さん …… 水野 ……
カズ、リキ、コータ、大石、柿田、森田 ……
・・・ヒロ
心配するな。
俺が ……
邪魔者を ……
排除してやるから
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