北高野球部応援コミュニティ
夜景を見下ろすと、ドームから帰宅する光の渋滞がすごい事になっていた。
警電をチラ見して時間を確認した。
21時を回っている。
病院の面会時間はとうに終わっていた。
・・・ ?
だが、ここの客は俺たちの他にまだ七組もいる。
「ここは0時までやっとるよ。なかなか商売熱心だろ ?」
石神さんが俺の挙動を見透かしたように、ぼそっと言ってまたスマホに目を落とした。
心を閉じたままやり過ごそうとしている俺は、咎められたような気さえした。
確かに俺は今、石神さんの目から逃げようとしている。
引け目は感じるが、ここで石神さんに真実を言うわけにはいかない ……言ってもどうにもならない。
言うなら、まず大沢 ……そしてヒロ。
20年近くも経って、ようやくそれが分かった。
「おっ、ドリスタもまた敗けた。しろくまは1対13のボロ負け ……でも首位キープ。東京も切ないねえ」
石神さんが嬉しそうに目を綻ばせた。
「レッドシャークスとブルーベイズもCSがかかってますからね」
しろくまが連敗した。しかし2位の東京ドリームスターズも連敗したために、しろくまが首位を守った。
相手は3位争いしているレッドシャークスとブルーベイズ。どちらもCS進出のために必死なのだ。
最終戦まで上位3チームが決まらなかった。
とんでもないペナントレースになったもんだ。
「ほぉー ! 甥っ子が唯一の打点を挙げてるぞ !」
「えっ ? トシが出たんですか ?」
「ああ、八回に代打で出てセンター前タイムリー ……復帰して最初の打席でタイムリーとは、さすがだな」
「たまたまですかね」
・・・素直に嬉しい
「いやいや、彼のミート技術はたまたまじゃないぞ。水野や鴻野、京川が四苦八苦している中でいきなり結果を出す。並みのバッターじゃないさ ……ところでシモ、北高野球部応援コミュニティって覗いた事あるかね ?」
石神さんが、スマホに目を落としたまま訊いてきた。
・・・
「いえ、俺そういうのはまず見ないです」
SNSの中には、間違った情報が多い。
SNSを否定するわけではないが、刑事には目の毒だ。
変な先入観が植え付けられて、事件の筋読みをミスリードされてしまう危険さえある。
「春に北高が甲子園に初出場した時に出来たコミュニティサイトなんだが ……ここで大沢の事が話題になっとる。昔話の誹謗中傷っぽいが ……ここにシモの親父さんが登場しとる。もちろん偽物かも知らんが ……」
石神さんがそう言って、スマホを差し出した。
「えっ、親父 ?」
俺は恐る恐るスマホを受け取った。
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