化学反応

 

「杉村裕海 ……本当にデカい男なんだなって、歳を重ねるごと、その思いはどんどん強くなる」


石神さんが白くなった眉毛を撫でながら言った。


「・・・それ、俺もよく分かります。社会に出て、いろんな人間に出会って、いろんな経験をすればするほど ……そして水野たちが頑張れば頑張るほど、ヒロってすごいヤツだなって思い知らされる ……けど俺はともかく、石神さんもそう思うんですか ?」



「俺にとっても彼は特別だ ……とにかく、シモの代の連中には、今だに特別な思い入れがあってな。もう20年近くも昔の事だが、あん時、これほど劇的な化学反応は、もう二度とお目にかかれないだろうって思ったもんだ。実際、あの後の黄金期と呼ばれたしろくまにも、俺にはオマケみたいにしか思えなかった。それは ……そこに杉村がいないからなんだって、後になってよぉく分かったよ」


「劇的な化学反応 ?」


「ああ、2年余りの間にみんな、ひとまわりもふたまわりもデカくなった。あれはそれぞれが反応し合ってたんだ。深町さんも含めてな。人間には相性というものがあるんで、普通なら悪い化学反応もあったりするんだが、あん時は良い化学反応しか起きんかった」


「ヒロがいたからですね」


・・・その感覚


嫌になるくらい共鳴する。


俺の言葉に、石神さんは何も答えずにスマホに目を落とした。


「あちゃぁ、7回を終わって0対11。 ボロボロだな 」


「えっ、しろくまですか ?」


・・・いきなり試合経過の確認


「こりゃ、優勝のプレッシャーってやつだな。まあ、この際、ここで一度ガス抜きしとけばいい。優勝でも2位でも、CSで勝たなきゃ一緒なんだから」


「CSは大丈夫でしょうか ?」


「投手陣が頭抜けてるんで、CSは大丈夫だろ。日本シリーズは厳しいがね」


「・・・」


・・・優深すげー


「日本シリーズも、秋時さえ出られれば少しは勝負になりそうなんだがなあ ……」


石神さんがまた眉毛を撫でた。

一本だけ途轍もなく長いヤツがふわふわ動いて、さっきから妙に気になった。


「えっ、日本シリーズって、まだだいぶ先ですよ。今日すでに、病院から抜け出してるようなら、大沢も十分間に合いそうじゃないですか ?」


今年は長梅雨の影響で、パ・リーグの消化試合がまだまだたくさん残っていた。

日本シリーズはまだまだ先だ。



「シモッ」


石神さんが突然、鋭い眼光をぶつけてきた。



「いきなり ……どうしました ?」



「高3の夏。秋時と千葉監督の間に何があった」

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