大学病院
翌、9月17日。
まだ20時前。
こんな時間に、署から開放される。
野館の時なら、あり得ない事だった。
煌めくイルミネーションが続く駅前大通りの先、遠くの正面にほの青く照り出されたひときわ大きなビル群。
南洋大学附属病院。
その建物の照明から前へ逆に照り返された威厳が、シルエットになって見える。
南洋の街は静まりかえっていた。
車の交通量自体いつもの半分程度か。
ここひと月以上、こんな状態が続いていた。
清潔で健全な学園都市、南洋市。
そんな街の象徴であるホワイトベアーズが、8年ぶりにリーグ優勝を果たそうとしている。
優勝のかかった最後の三連戦。
今夜、第二戦がホームで行われていた。
今、南洋市民の大半はテレビの前だ。
夜、19時前から22時ぐらいまでの時間帯に、街から人が50パーセントも消えれば当然、犯罪や青少年の非行も減少する。
強行犯係が緊急出動する凶悪犯罪なんて、ここ数週間発生していない。
当然、一課の仕事も落ち着く。
今月に入って一課は専ら、二課や交通課、組織犯罪対策課等から回って来た比較的凶悪性の高い被疑者を逮捕するような役回りをこなしていた。
ひき逃げ被疑者の逮捕
覚醒剤取締法違反被疑者の逮捕
大麻取締法違反被疑者の逮捕
不正競争防止法違反被疑者の逮捕
詐欺被疑者の逮捕
犯罪収益移転防止法違反等被疑者の逮捕
オレオレ詐欺被疑者の逮捕
仕事は書類作成が9割を占めるような地味な事案ばかりだった。
新任の袖原は見かけによらず、書類関係に強く効率よく仕事を進める男だった。
いちいち印刷したものを提出させて、チェック、ダメ出しなんて事はせず、すべてPC内でチェックを済まして、上に通せる状態のものだけ印刷させる。
チェックの際に単純なミスは、自分で修正してしまう。
野館なら作成者を呼びつけて嫌味を言って大騒ぎしていた一連の
イナさんの後任である迫田主任もソツのない仕事をしていた。
印象として冷静で頭がキレる。
45歳で巡査部長というのが、不思議に思えるほど全般的に仕事が速く的確だった。
袖原班長と迫田主任のおかげで、一課一班は書類処理の時間が半減した。
そして、俺に押し付けられていた文書仕事も半減したのだ。
前方に大学病院の威容が現れた。
21時までの面会時間に余裕で間に合いそうだ。
やっと見舞いに来れた。
・・・ヒロ
本当はいつでも来る事は出来た。
仕事を少し抜けるくらいどうって事ないのだ。
結局 ……
ヒロの顔を見るのが怖かった。
掛ける言葉がない。
ここ数日間、そんな悶々としたウジウジした自分が嫌でどうしようもない。
この時間になると駐車場はガラガラだった。
緊急連絡口のすぐ前に車を駐めた。
・・・ ?
病院から一人、男が出てきた。
目つきの鋭い男。
懐かしい顔。
俺は車を降りて男の前に立った。
「・・・シモか ?」
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