超人気キャラクターグッズ

 

『優深、最近はすっかりゲームに夢中なの』


「優深もゲームなんてやるんだな。そんなイメージじゃなかったが …… 」


『よく分からないのだけど、何かを熱心に育てているみたいよ。本なんかですごく研究しているもの』


去年、どんな誕生日プレゼントを買えば優深が喜ぶのか、皆目見当のつかなかった俺は、祥華からそんな情報を得た。



「10歳の女のコがゲームで何かを育てているって聞いて、何のゲームの事か分かるか ?」


ゲームに疎い俺は会社・・でゲームヲタクを自認する綱海に訊いてみた。



「誰だって分かりますよ」


綱海は当然のように即答した。



そして綱海の当番宿直を3回代わってやることを条件に、ほとんど入手困難と言われるそのゲームの “ 超人気キャラクターグッズ ” を手に入れてもらったのだ。

何しろ、10000個限定の超希少レア物でネットでは10倍以上の値がついているらしい。



「タカさん、これでめっちゃ株があがりますよ」


綱海はドヤ顔でそう言ったものだった。



クソッ !


大外れじゃねーか。



実際、プレゼントを渡した時の優深の反応は薄かった ……元々、喜びの感情を顔に出さないので気にしていなかったが ……



でも、まさか野球ゲームとは ……



「優深はどんな選手を育ててるんだ ?」


「今、京川選手を育てています」


「サウスポーキャッチャーか。上手く育ちそうなのか ?」


「難しいですけど、それなりにはなりそうです。本当は捕手を大沢選手にしたかったのですが、優深には難しくて無理でした」


「えっ、京川より大沢のが難しいのか ?」


「ぜんぜん、違います。大沢選手はトシくんでも難しいって言ってました」


「それは ……実際の選手と同じ能力になるように育成するって意味だよな ? 大沢ってそんなすごい ?」


「トシくんが言ってました。あれだけのパワー、駿足、強肩で投手の能力まで引き上げる捕手なんてまず作れない。メジャーリーグにもいないって」


「・・・」


なんか、うれしい話だな。



「あっ ! 大沢選手。目の手術が無事終わったって ! 」


優深が突然、スマホに落としていた目を輝かせた。


「えっ ! そんな情報、どこから ? 」


「朔くんからです」


優深が嬉しそうにスマホのライン画面を見せてくれた。


・・・ああ、なるほど ……


「大沢選手 ……間に合うかな ?」


優深が独り言のように呟いた。


「日本シリーズか ? 」


「うん ……」


そう言って、またスマホに目を落としながら立ち上がった。


「ママが迎えに来る時間になったので帰ります」


「ああ、そうか。じゃあ次は日本シリーズの観戦かな」


「はい、すごく楽しみです」


優深が遠慮気味に首を傾げ、玄関に駆けて行った。


・・・半信半疑か



「カレー、驚くほど旨かった」


玄関に向かって大声を出した。


「よかったです」


優深の声と施錠音が重なった。


帰ったか ……



・・・日本シリーズ



・・・休めればいいが ……



いや、この際 ……何が起きても



休んでやる。



だが ……



・・・チケット取れるかな ?



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る