俺の好み

 

牛すじとタマネギが溶けかかっっていた。

それ以外に固形物の見えないトロリとしたコゲ茶色。

香りも見た目も完璧に俺好み。



「いただきます」


「はいっ、どうぞ」


優深はニコリともせずに、カウンターに氷の入った水を置いて、俺の隣のチェアに勢いをつけて座った。


目の前に置かれたカレー。

俺はスプーンいっぱいにガッツリ乗せたカレーと御飯を一気に口に突っ込んだ。



・・・ !




・・・マジか !




・・・すっすごく




・・・うまい




もう少し辛くてもいいが ……



いっいや、これは関係ない。



これは ……美味い。



・・・



チクショウ ……



美味いよー



・・・こんなカレーが食べたかった



もう言葉が出ない。



俺は育ち盛りの中学生のように、夢中でカレーを口に運んでいた。


優深も同じ。

隣で黙々とスプーンを動かしている。

珍しいほどバクバク食べている。


・・・ ん ?


キッチンカウンターに並んで座って、シーンとしてていいものか ?



ここは俺がこのカレーを褒めるところだ。

優深も俺の言葉を待っているかも知れない。


ここは絶賛するべき所だろ ?

なんて言おう ?


・・・



いや、ずっと口に運んでいるので喋れない。

まさかこの歳になって、たかがカレー如きに ……しかも娘が初めて作ったものに、こんなにがっつくなんて ……


間違いなく、これまで食べて来たカレーの中で断トツ一番だった。


素直にそう言えばいいのか ?

なんだか ……白々しくないか ?


しかし ……


何でこんなにも美味いんだ ?



優深が作ったからそう感じているだけなのか ?

シチュエーションの問題なのか ?


いや、そんな事はどうでもいい。

とにかく美味かった。


こんな ……ソースと御飯だけで楽しめるシンプルなカレーが食べたかったんだ。



優深すごいな。



横に座る優深を見ると、目が合った。



「めちゃくちゃ美味い」



結局、頭の悪そうな言葉しか出て来なかった。



「よかった ……でも貴さんって、ママの料理もいつも何食べても美味しいって言って、何でもいっぱい食べてたから …」


優深が疑いの目を向けて来た。



・・・そうなのか ?



「祥華の料理はいつも美味しかった。でもこのカレーはめちゃくちゃ美味い。祥華の作るカレーの何倍も美味い」



・・・本当だ



「嬉しいです。貴さんが好きそうなカレーを上手に作るのが、ずっと優深の目標でしたから ……」



・・・えっ ?



春雨サラダを食べながら、優深がニコッとした。



・・・目標って ……マジか



とても敵わん。



祥華が作るカレーも確かに悪くはない。


祥華は色んなカレーを作る。

そして色んな具材を入れる。

御飯もバターライスだったり、チーズナンだったり、それはそれでいつも美味しいと思って食べて来た。


が ……


「驚いた。俺の好みがよく分かったな」


「ずっと想像してたんです。貴さん、こういうカレーが好きなんじゃないかって。それでずっと調べてたんです」


優深は深刻な表情だった。



「・・・そうか」



俺は ……



どうして優深と離れて暮らしているんだろう ?



祥華は何故、離れて行ってしまったのだろう ?

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