親の説明をアプリで裏取り

 

冷蔵庫からキュウリ、ニンジン、ハムを取り出した。


「サラダ ?」


「はい、スープを煮込んでいる間、中華風春雨サラダを作ります」


優深が素早く手を動かしながら、チラっとこっちを見て答えた。

やはり時々スマホに目を落としている。


「へぇー」


自分から訊いておいて、マヌケな声しか出せない俺。


「これも初めて ?」


「はい ……でもふだんからレピシはよく視ます。美味しいって思った時とか、ママがどうやって作ってるのか後で確認するんです」


・・・


「祥華に直接訊いた方がよくないか ?」


「前はそうしてました。でも説明が抽象的でよく分からなかったから ……結局、調べる方が速くて確実って事に気づいたんです」


・・・ははっ、抽象的って


祥華の料理も結構行き当たりばったりなところがあるからな。


親の説明をアプリで裏取り。

なんだか ……いかにも…だな。


湯を沸騰させた鍋に春雨を入れ、2分ほどでサッと取り出してお湯を切る。

流水にさらし、さらに熱湯につけた後、入念に水気を切る。


きゅうりを縦半分に切り、薄切りにし、長さを半分に切る。ロースハム、にんじんは細切りにする。



・・・ホントに初めてなのか ?



“ 料理はセンス、私は作るのが好きなだけ。センスのある人にはとても敵わない ”


昔、祥華がそんな事を言っていた。

確かに優深を見ていると、センスを見せつけられているような気がする。


春雨と細切りにしたキュウリ、ニンジン、ハムをボウルに入れて混ぜ合わせると、そのまま冷蔵庫に入れてしまった。

あっという間だ。


冷やしてから、あとは中華ドレッシングをかけて完了か ?

シンプルだがめちゃくちゃ美味そうだ。


牛すじスープの火を止めてカレールウを溶け込まし始めた。

ここに来てずいぶんと慎重な手つき。

一気にカレーの風味が漂い始めた。


・・・マジで、ヤバい


もう一度火をつけて弱火にする。

グツグツと蠢くオレンジ色が、徐々にこげ茶に変化する。


・・・色がまた ……たまらん


「朔くん」


優深が鍋を掻き回しながら小さな声を出した。



「えっ ?」



「大沢朔くん ……」



「ああ、例の」



「もう大丈夫みたい」



「イジメ ……なくなったのか ?」



「うん。誰も手を出さなくなった」



「そりゃあよかった。さすがだな。やっぱり敵わん」



「うん ……えっ ? 敵わんって、理由を知ってるんですか ?」



「あ、まあ。偶然見かけたからな。学校にその子の親友が来ている所を」


珍しく優深の目が丸くなった。


「偶然 …………ですか ?」


そう言って、優深が初めてニッコリと微笑んだ。


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