史上最強のスラッガー

 

 プロ入り当初の大沢は、水野ほどの華々しい活躍は出来なかった。


 やはりプロの投手。

 フルスイングのルーキーに、すぐにタイミングを合わさせるほど、甘くはなかった。

 2割5分にも満たない打率が3年続いた。


 しかしプロのバッテリーも、さすがに大沢の足だけは止められなかった。

 特に3年目以降の大沢は走りまくった。

 そして同じチーム内に二人のライバル。


 水野、そしてこの年に入団した辻合の三人で毎年、激しい盗塁王争いを繰り広げる事になる。


 その最初のこの年、その争いを制したのは二人を出塁率で圧倒した水野だった。

 この年の水野は打率、打点、盗塁、最多安打等、いくつものタイトルを手中に収める。

 

 3年目までは完全に水野において行かれた感のあった大沢も、遂に4年目から爆発する事になる。


 投手力頼みだったチーム、水野一人奮闘していただけの貧打のチームが、大沢が不動の4番に座ったこの年から、一気に変貌する事になったのだ。

 そしてこの年からしろくまホワイトベアーズの黄金期が始まったのだった。


 日本球界史上初の40本塁打&40 盗塁

 4年目の大沢は、この快挙をあっさりと成し遂げ、しかもそれを5年間続けることになる。


 史上最高のスラッガー。


 あの時の大沢は間違いなくそう呼ばれるに相応しいものだった。


 ・・・もう7年 ……8年になるのか


 ・・・ん ?


 携帯のバイブ音。

 警電 ……じゃない。

 スマホの電話着信。


 俺は新聞の下でカサカサと音を鳴らすスマホを引っ張り出した。


 ・・・


 表示を見て、思わず身が固くなる。


 ・・・珍しい


 すぐに出れなかった。

 背中の方から、後ろめたさのような気後れが襲ってきた。

 自分の煮え切らない態度に、狼狽えながら “ 受信 ” をタップした。


「えらく珍しいじゃないか ?」


『うん』


「怪我はもういいのか ?」


 本当は訊く必要のない言葉だった。

 もうすぐ1軍に合流するという情報は得ていた。

 だから完治しているのは、知っていた。

 肋骨を骨折してから、もうすぐひと月になる。


『うん ・・・あの ……』


「どうした。としの方から電話して来るなんて …」


『・・・ヒロさん』


「・・・ん?」



 ・・・あっ !



『入院してるって』


「・・・」


 ・・・そうだった !


『どこに ?』


 ・・・すっかり忘れてた


 すぐにとしにも知らせるべきだった。


「誰に聞いた ?」


『力丸監督』


 ・・・リキ


 としは怪我して2軍で調整していた。

 2軍監督とたまたまヒロの話にでもなったか ?


「そうか。すぐに連絡出来なくて悪かった」


『病院 …どこ』


「南洋大学付属病院。11階の神経内科 ……1101号室」


『ありがとう』


「・・・」


 切れていた。



 ・・・うっかりしてた



 としにとって …


 ヒロほど、かけがえのない人はいないはずだから ……


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