5連覇

 

 あの年、大沢秋時はしろくまに 2位指名され、無事プロ入りを果たした。


 大沢も水野同様、ホワイトベアーズを希望球団に挙げていた。

 したがって他球団は、その暗黙の了解ルールにしたがって、大沢の1位指名を避けてくれたのだ。

 

 いや実際は … “ リスクを避けた ” と言うべきか ?

 

 あの年、アメリカで三振しまくっていた大沢は、その後、秋の東海リーグでも不振を極め、プロのスカウトの評価を一気に落としていた。


 “ やはり無茶なフルスイングが祟り、身体に故障を抱えているのではないか ”


 一部のマスコミがそんな記事を載せた事で、各球団に大沢指名回避の空気が流れた。

 

 西崎、和倉、塔馬、村上、太刀川、紀尾井、玉置、鷲見。

 リスクを冒してまで大沢を指名するほど、一位候補に困る年でもなかった。


 だから大沢はすんなりと、しろくまの一員になれた。

 これは他球団のスカウトの読みが甘過ぎた結果だ。

 それこそ石神さんからすれば、棚からぼた餅と言ったところだろう。


 秋のリーグ戦の大沢は、ただ単に自分のプレーを考えている場合ではなかった。

 ただ、ひたすらにヒロの復活の事しか頭になかったのだから ……


 1位水野、2位大沢。


 しろくまはとんでもないスラッガーを二人同時に手に入れることに成功するのだった。

 

 南洋ホワイトベアーズからすると、そもそもその時代背景に、追い風があった。


 

  “ ドラフトクライシス ”


 当時、このフレーズはちょっとした社会問題になった。



 俺が大学2年だった当時、この年のドラフトで指名を受けた36人の内、実に3分の1の12人がプロの誘いを拒否し大学に進学していた。

 絵に描いたようなプロ野球人気の凋落。

 特に球界の盟主、東京ドリームスターズに至っては、指名 6人の内 4人が名峰大に進学するという屈辱的なドラフトとなっていた …( 実際、12人中 7人が名峰大に進んだ事から “ 名峰クライシス ” とも呼ばれていたが、実はその中には南洋大に進んだ 4人〔大石、鷹岡、佐野、辻合〕も含まれていた )


 この問題を機に、ドラフト会議のあり方についての議論がマスメディアで沸騰、あちこちで議論が炎上する騒ぎが起きるなどの社会現象に発展した。

 その流れから、長年言われ続けていた “ 職業選択の自由 ” と “ 地域密着型の指名 ” がクローズアップされる事となる。


 この時からドラフトは、本人の希望を尊重する風潮が不文律という形で出来上がった。

  もし本人の希望を無視して強行指名して入団を拒否された場合、ゴリ押しした球団は、世間やマスコミから相当なバッシングを受ける事になる。

 

 こんな流れが 名峰大 〜 福岡グレートマトリックス、南洋大 〜 南洋ホワイトベアーズのような、地元有力校と地元プロ野球とのつながりを強固なものとし、各球団がより地域密着型のチーム作りを加速させていくことになったのだ。

( ちなみに5球団が1位指名をする事になった西崎透也は、希望球団を敢えて表明しなかった事によるものだ ……ヤツは元々、メジャー・リーグにしか眼中になかったから … )


 のちにその流れに乗って、南大の後輩たちはこぞって南洋ホワイトベアーズ入りを熱望し、他球団はそれを忖度して南大選手の指名を避けた。(四国出身の力丸龍平は、在阪球団を希望した為、神戸アスレチックスの 1位指名を受けた)


 職業選択の自由。


 地域密着型。


 地元出身の生え抜きのスタープレイヤー。


 南洋ホワイトベアーズの黄金期と言われたあの頃の時代背景にはそんな社会の風潮と新しい球団経営のトレンドがあった。


 水野、大沢、三枝、辻合、大石、森田、柿田 ……南洋大の神宮V戦士がこぞってしろくまに勢揃いした時、チームはリーグ 5連覇という圧倒的な強さを見せたのだ。


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