現役に固執

 

 大沢は …



 酷烈な逆風は、大沢が踏ん張れば踏ん張るほど、その苛烈さを更に増して行く。


 昨年秋、フロントの戦力外通告に対して現役続行を強硬に主張し、バッテリーコーチの要請をも拒否した大沢に対する世間のバッシングは、今シーズン想像以上に厳しく激しいものになった。


 特にネットの世界では、連日の大沢バッシングで異様に盛り上がり、一部の熱狂的なしろくまファンによる悪意の書き込みは日に日にエスカレートしていった。



“ 球界の至宝、引き際を誤り晩節を汚す ”


 こんなフレーズに始まり



“ 現役に固執する往生際の悪いタダ飯喰らい ”


 と完全に悪質なこき下ろしとなり


 さらには …



“ 京川に立ち塞がる老害の恐怖 ”


 と悪意に塗れた。




 その背景には様々な要素が大沢に襲いかかっていた。

 7年間、優勝争いにまったく絡めないチームに対するファンの不満、鬱憤が大沢という標的に集中した事。

 そんな中でも今尚、奮闘する水野や三枝たちに対し、全盛期に程遠い成績の大沢だけが常に戦犯扱いされた事。

 更にスーパーアイドル京川聖の専任コーチ要請を断わった事に対する見せしめ、断罪の意味合いもあったのだ。



“ 引き際を誤り ”


“ 往生際が悪い ”


“ 現役に固執 ”



 どれも俺の知っている大沢からは、最もかけ離れたフレーズだった。


 まだまだ、怪我さえ治れば10年前の大沢に戻れる。

 深町さんがきっと何とかしてくれるはず。

 俺はそう信じていた。


 だが ……


 一方では、球団フロントに …あの久住GMに戦力外通告を受けて、大揉めに揉めてまで突っぱねた。

 これは俺の知っている大沢じゃない。

 

 だから今シーズン。

 この一連の騒動が俺を複雑な心理状態にしていた。

 そしてひそかにその理由を模索していた。


 ・・・何かが起こっている


 ずっとそう感じていた。



 そしてその不可解な謎が、最悪の形で晴れた。


 現役に固執。



 ・・・そうか



 そういう事だったのか。



 引退するわけにはいかないよな。


 

 西崎が言う通りだ。



 生まれた時から、ずっと二人三脚 ……



 ヒロを本当に喜ばせる事が出来るのは …



 大沢しかいない。

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