仲間に期待する気持ち

 

 焼き茄子 …じゃがバター …モツ煮 …タコの唐揚げ …厚揚げ ……追加追加 !


 これが5人前 …こっちが4人前 ……


 足りないぞ …


 こんな食えねぇよ ……


 あれやこれやの大騒乱の末に打ち込まれたPOSオーダーが、ようやく端末から発信された時、大沢が再びぼそっとした声を漏らした。



「水野っ」


 水野がジョッキを手にしたまま動きを止めた。


「さっきヒロは、“ ぼくのために ” って言ったけど ……たぶん水野もみんなも誤解してるんじゃないかと思う」


 水野が大沢に目を向けた。

 その目は純粋に問いかけるような眼差しだった。


「きっとヒロの事だから、さっきの言葉は思いやりの裏返しだとか、あえて自分が悪者になって …とか思ったんじゃないか ?」



「えっそうなの ?」


 ヒロが目を丸くした。


「違うんか ?」


 俺はヒロに問いかけの目を向けた。


 ヒロは丸くした目をさっと細めた。


「そこまで重い話じゃないよ。ぼくのためにプロに行ってよって言ったのは、そのまんまぼくのわがままな希望でしかないよ。キャプテンはどんな時でもまず人に相談しないし、いつでも自分で正しい選択をしようとしてると思う。その結論に他人がとやかく言う事じゃない。ただ、皆んなを集めて皆んなの前であえてああ言ったのは、仲間に期待する気持ちみたいなものは、素直に口にすればいいと思ったんだ。4年間一緒にやってきた、この八人の仲間とはずっとそういう関係でいたいからね」


「ぼくの潰れた指の事だって、遠慮なく話題にしてくれていいんだからね」


 西崎が突然、すました声を出した。


 ヒロのモノマネのつもりだったらしい。



「クソ似てねーし」


 珍しい水野のツッコミ。



「うるへーっ !」


 熱り立った西崎の目の前におかわりのビールが置かれた。

 一瞬で目元が緩んだ。


「WAO! 」


 西崎は大ジョッキに抱きつき、すでに超ご機嫌だった。


 ・・・なぜ横文字 ?



 だが確かに …


 仲間なんだから、腫れ物扱いはいかんな。


 その空気を察したヒロがあえて意識して言った言葉だったのか。


「そうか。そうだよな。正直、帰国後リハビリに苦しむヒロにはかける言葉も見つからなかったし …水野には是非プロに行って欲しい、なんて言葉もタブーだと思ってたな」


 俺の言葉に、島が “ そりゃ皆んな、そうなるっしょ ” と言って頷いた。



 次々と料理がテーブルに並びだした。


 大沢が満足げに大皿に手を伸ばしている。


 ・・・いきなり焼きうどんって ……



 ・・・だが


 あのヒロの邪気のないひと言が水野の心を開かせた。

 たぶん、それは俺だけじゃくあの場にいた誰もがそう感じていたはずだ。



「別に …」


 おもむろに水野が口を開いた。

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