大沢が沈黙を破った


 水野の目が細まった。


 眉の辺りに不穏な線を刻んでいる。


 いかにも忌わしそうな顔つき。



 ヒロの一言。


 ・・・ぼくのためにプロに行って


 ・・・ヒロらしくない空気無視の奇襲


 一瞬にして十畳ほどの小さな空間が凍った。



 相手が水野一人ならまだしも……


 そこは、久々に八人が揃った飲みの場。


 そこでいきなり他人の進路に干渉する発言。


 しかも相手は …あの水野。


 他人に干渉される事を最も嫌い、自らの力ですべてを切り拓いて来たような孤高の男。



 この場では最もデリケートな話題。


 それを西海岸で夢を失ったばかりの男が、いきなりぶち撒けた。



 ジョー、島、桜町が呆然とヒロの顔を見つめて固まっていた。



 俺は言葉を探しながら西崎、そして大沢を見た。



 仏頂面の西崎がジョッキの中身を流し込んだ。


 ・・・はやっ



 大沢は…


 ・・・


 ひらすら端末に指を滑らせている。


 真剣な形相。


 ・・・必死 ?


 手元の大ジョッキは ……すでに空っぽ。


 ・・・マジか




 沈黙。



 俺は言葉を見つけられずに、ヒロの方に顔を向けた。



 いつもの弾けるような笑顔はない。



 これは……


 記憶の片隅に残る…


 大人のヒロ。



 あれは……


 北高のミーティングルーム。


 大沢退部の真相を語る大人のヒロ。




「みんなちょっと聞いていくれ」



 端末に目を逸らさずに、ぼそっと言った。


 ・・・大沢


 大沢が沈黙を破った。


 桜町がビクッと肩を跳ね上げた。


 みんなが大沢に目を向けた。


 水野も冷たい視線を送っている。



「じゃあ、読むぞ」


 大沢のはっきりとした明るい口調。



 ・・・読む ?



「焼き鳥盛り合わせ 刺身盛り合わせ 串焼き盛り合わせ 卵焼き 鳥唐揚げ ゲソ唐揚 フライドポテト 餃子 シュウマイ 焼きそば 焼きうどん たこ焼き 特製ビザ ホッケ 枝豆 …それと

シーザーサラダ 魚介サラダ ポテトサラダ …… あと、なに頼む ?」



・・・


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