生き残りの同期で飲み会

 

 昨年の十月。


 ヒロの発症がわかったのは、もう一年近くも前の事だったと言う。


 ヒロは家族に公表を禁じた。


 昔の仲間たちに心配かけたくないから、というヒロらしい理由で…


 しかし家族は、四人だけには知らせずにはおられなかった。


 深町監督、大沢、水野、そして西崎。




 あの時…


 俺がヒロから貰ったもの…


 想いか… 言葉か… 姿勢か… 知識か


 笑顔か…



 なんか…よくわからん……が


 ヒロが横に居てくれたから、仲間の一員として目一杯輝く事が出来た。


 そしてそれは、俺だけが特別に貰ったものではない。


 後輩たちもそれぞれにヒロから貰った “ 輝き ” があるはずだ。

 それをヒロに見てもらう為に、今再び光らせようと老体に鞭打っている。




 ・・・水野、西崎 … 大沢



 奴らの…ヒロとの絆は…またそれぞれに深いはずだ。



 

 水野は今、どんな想いでヒロの病気と向き合っているのだろうか。



 球界のプリンス。


 球界史上最高の遊撃手。


 ホワイトベアーズ次期監督。


 世間が水野薫を語る時、必ず口にするフレーズ。


 通算2600本以上のヒット。500近い本塁打。1500以上の打点。450を超える盗塁。

 最多安打。首位打者。ホームラン王。打点王。盗塁王。新人王。MVP。ベストナイン。

 そしてトリプルスリーに40&40。

 更に1年目から15年連続のゴールデングラブ。


 今、全ての栄光を手に入れたような水野も、あの時はドラフトを目前にして、プロ入りの意思を表明しなかった。

 理由は …大学野球で燃え尽きた、と言って本人は笑っていたが…

 ホワイトベアーズは元より、球界全体、そして野球ファンを震撼させるような表明だった。



「生き残りの同期で飲み会しようよ」


 そんな時、ヒロが突然言い出した。


 今も忘れない、居酒屋「口切り横丁」に集まった同期八人の飲み会。


 ヒロ、大沢、水野、西崎、暮林、島、桜町…そして俺の八人。

 


 島の音頭で、とりあえずビールで乾杯。

  

 ここでヒロがいきなり水野に言った。


「キャプテン、ぼくのためにプロに行ってよ」


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