ヒロに何があった ?


 

 ・・・いつの間に帰国してたんだ ?



 ニシザキさーん


 ニーシザキィ


 ニシザキトーヤァー


 トーヤッ ! トーヤッ! トーヤッ!


 小さな人、ひと、ヒト…


 歓声、叫声、悲鳴


 男の子はみんな興奮状態だった。


 校舎と体育館の連絡通路。

 渡り廊下って言うのか ?

 そこが小学生で溢れかえっていた。


 ・・・お見送りか ?


 ・・・すげー人気……しかしなんで西崎がここにいるんだ ?


 先生の注意も無視して、生徒がみんな鈴なりになって西崎に手を振っていた。

 いや、先生たちも生徒たちを制止する振りをして、目線は西崎に釘付け状態だ。


 ・・・もしかして … 大沢朔か ?


 西崎も駐車場に後ずさりしながら、手を振って愛想を振りまいている。


 ・・・相変わらずのお調子者ぶり




「肩はいいのか ?」


 俺は西崎の真後ろに立ち、おもむろに声をかけた。



「ん ?」


 西崎はさして驚くこともなく振り向いた。


「ああ、問題ない」


 そう言って、一瞬俺と目を合わせたが、すぐに目線が梨木を見つけた。



「おはようございます」


 梨木が上気させながら、最高の笑みを放っていた。

 こんな輝いた笑顔…初めて見た。


「やあ」


 西崎も最高にさわやかな笑顔。



「シモ…彼女か ?」


 目は梨木を見つめたままだ。



「アホか……同僚」


「わお !」


 西崎がすぐに梨木に右手を差し出す。


「女の刑事ってかっこいいですね。俺、下村刑事のお友達で、西崎って言うモンです」


 ・・・わざとらしい


 真っ赤な顔した梨木が両手で応える。


「まだ、新人なんですよ。梨木楓美といいます」


 初対面の二人がニコニコと手を握り合っていた。


 ・・・お前らアホか



「こんな所に刑事デカが何の用だ ?」


 唐突に西崎の背中が問いかけて来た。


「ここいるお前の方が不自然だろ ?」


 そう言うと、西崎がやっと俺と正対した。


「ずいぶんと久しぶりだな」


 西崎がニヤっと白い歯を見せた。



「まったくだ。それにしても驚いた」


 ・・・ずいぶんと大物になりやがって…



 西崎がゆっくりと俺の胸に拳を繰り出してきた。


「もしかして……朔か ?」


 西崎の方が先にその名を出した。



「・・・何の事だ ?」


 咄嗟にとぼける……デカの習性…



「・・・いや、もしそうなら今日のところは引き上げてくれ」


「どういう事だ ?」


「子供の問題にデカが口出すなって事だ」


「お前、いま何かして来たのか ?」


「朔は俺の一番の親友でな。だから教室でみんなにそう言ってきた」


 ・・・


「なるほど…じゃあ任せるとするか」


「ああ、あとの確認も俺がしておく……もしデカが必要な時は、俺から彼女にお願いする事にする」


 そう言って梨木に甘ったるい笑顔を向けた。


「・・・わかった。で…こっちにはいつまで ?」



「お前……」



 ・・・?



「なんだ ?」



「ヒロの事……」


 そう言って西崎が凄みを滲ませた。



「・・・ヒロがどうした ?」



「やっぱりお前も知らんのか ?」


 今度は苦悶の空気をぶつけて来た。


 ・・・らしくない


「ヒロがどうかしたのか ?」 



 西崎がそんな顔を見せたことあったか ?



 ・・・ヒロに何があった ?





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