南大のレジェンド


 前方にドーム型の建物が見えた。

 小学校の体育館だろう。

 何とか辿り着いたようだ。


「俺って怖いか ?」


 唐突に訊いてみた。


「えっ、突然どうしたんですか ?」


 梨木の背が縮こまった。


「いや、俺が職員室に入って行ったら先生たちビビるかな ?」


「聞き込み…ですか ?」


 妙に張り切った声。


「いや。プライベートの用事なんだが……梨木は、大沢秋時って知ってるか ?」


「当然です。伝説の先輩ですから…」


 ・・・何故ドヤ顔 ?


「伝説なのか ?」


「はい。杉村先生と大沢選手と水野選手と西崎選手…………と主任……南大のレジェンドを知らない後輩はいませんよ」


「・・・今、無理して一人付け加えただろ」


 ・・・聞いてて恥ずかしいわ


「大沢選手がどうかされたんですか ?」


 ・・・ごまかしやがった …


「いや、大沢の息子があの学校に通っているらしいんだが、ちょっと気になる噂を耳にした」


「うわさ…ですか」


「今シーズンの大沢、ずっとスランプでな」


「そうなんですか ?」


「野球は興味ないか ?」


「ルールが難しくてよく分かりません ……あと私、チームスポーツとか球技とかぜんぜんダメなんです」


「あれだけの反射神経と動体視力があれば、何でも出来そうだがな」


「相手が一人じゃないと、パニクるんデス」


「野球も1対1の立会いみたいなもんだけどな」


「ち、違いますよー。例えばピッチャーだったら、バッターだけが相手じゃないですもの。ランナーを気にしたり、そのランナーも一人だけじゃない時もありますし…バッターの時だって、送りバントとかランナーを進めるバッティングとか…私あれもこれもってダメなんですよ」


 ・・・野球けっこう詳しいし…


「大沢選手がスランプなんですか ?」


「あ、ああ……そ、そうなんだが…」


 ・・・なんか調子狂うな


「それで、そのせいで大沢の息子が学校でイジメみたいな事になってるって噂が…」


「そ、そんなのダメです !」


 梨木がいきなり叫んだ。


「いや…そのへんがまだ」


 ・・・何で俺が睨まれる ?


 ようやく学校に到着した。


「先生方は何をやってるんですか !」


 ・・・興奮するなよ…… ん ?


 教職員専用駐車場と書かれた一角に、とんでもない外車が鎮座していた。


 キャデラックエスカレード。


 ・・・凄い先生もいるもんだ


 俺は、1000万は軽く超えるSUVの隣に、フォレスターを頭から突っ込んだ。


「で、俺がいきなり職員室に行くと、先生たちがビビるかなって」 


「うーん。確かに主任ってすごく大きいですし、眼つきが悪い…鋭いですから先生方が構えちゃうかもですね」


 ・・・なんだが遠慮ねーな


「梨木に頼めるか ? そんな噂が入ったので、ちょっと寄ってみましたって感じで」


「えっ…うっ…あっ…」


 ・・・ ?


「梨木 ?」


「あわわ……あれ ?」


 校舎の方を見た梨木の目玉が飛び出しそうになっていた。


「どうした ?」


 ・・・ん ?



 ・・・まさか ?



 ・・・なんでお前がこんなところに居るんだ、西崎 ?





 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る