白瀬


 南洋市を東西にニ分する白瀬川。


 川の東側は、JR南洋駅を中心にTDCツインドームシティの巨大な建造物の数々、その周辺には超高層ビルがひしめく。

 そして更に東側に向かって広大な学園都市が広がっていた。


 今や “ しろくまの街 ” も立派な大都市だ。


 ホワイトベアーズのオーナー秋庭聖一は、15年ですっかり街を作り変えてしまった。



 そして西側がベッドタウン。

 巨大なショッピングモールが三箇所もあり、その周辺には高層マンションが建ち並ぶ。

 道路のあちらこちらにスクールゾーンの緑色が塗られている。


 

 先勝橋を渡ると左折した。


 左折すると白瀬中町、右折すると白瀬本町。


 白瀬本町…白瀬中町…白瀬北町…白瀬川町…白瀬川南町…白瀬川北町…etcetc


 この西区一帯の町名は白瀬だらけだ。

 事件が発生すると、現場の町名を何度も確認しないと大変な事になる。


 俺も着任早々、白瀬北町で発生した傷害事件の無線を受け、白瀬川北町に急行した痛い思い出があった。


 この一帯を管轄区域にもつ地域課も、さぞ苦労している事であろう。



「あっ、今のとこ右です」


 梨木が後ろを振り向きながら、慌てて通り過ぎた脇道を指差した。


 ・・・またか


 俺はUターンする為に、左手に現れたドラッグストアの駐車場に車を突っ込んだ。


 こっちの方が早いです、と言ってナビを無視して脇道に入ったはいいが、どうも梨木の記憶が曖昧らしい。


「すみません。久しぶりなもので…」


 梨木はさっきからヘコヘコのしっ放しだった。


 ・・・あの静謐なまなざしはどこ行った ?


「いや、近道には違いなさそうだ」


 助手席の梨木は360度…首が折れそうな勢いで周囲を確認している。


 ・・・必死 ?


「あ、あとは道なりですからもう安心です」


 梨木自身がさも安心したかのように表情がぱっと明るく輝いた。


「そうか」


 ・・・


 目の前の道が二つに分かれていた。

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