背中を追っただけ


 観客がどっと湧いた。


 96.7マイル。


 ・・・また三振だ


 俺は思わず携帯の機能を使って換算した。


 ・・・155.6キロ


 とんでもない高速スプリット。



 西崎が5回途中から派手な奪三振ショーを繰り広げていた。


 これでフォアボール2つを挟んで6者連続奪三振。


 際どいコースを狙って、100%の全力投球ってヤツだ。



 西崎透也のリミッター解除。



 その計り知れないポテンシャルを…



 その埋もれた性能を…



 大沢が…


 

 このペトコ・パークのマウンドで引き摺り出そうとしている。



 スコアは 1ー0 のままの7回裏。


 これでツーアウト。


 バッターは全米選抜の主砲。



 初球。


 大沢がインハイに構える。


 真っ直ぐがやや中に入った。


 怪物の豪快なスイング…


 が空を切る。


 99.4マイル。


 ・・・159.9688キロ



トーヤッ ! トーヤッ ! トーヤッ !


トーヤッ ! トーヤッ ! トーヤッ !



 ・・・すごっ



 “ 敵地 ” で…



 ペトコ・パークで “ トーヤコール ” が巻き起こった。



 ・・・



「さっき」


 俺は画面を見つめながら言った。 


「えっ ?」


「正義感が強いって…」


「ええ、いつだって貴さんは正義の味方だったよ」


 祥華は手に持ったカツサンドの、齧りつくポイントにロックオンしながら言った。


 ・・・さっき持ってた “ バター入りマーガリン&小倉ホットサンド ” はいつの間に食べたんだ ?



「もし、そう見えたとしたら、全部あいつらのお陰なんだ」


 ・・・俺は


 ・・・あいつらの背中を追っただけだ




 うおぉぉぉぉー



 ペトコ・パークのスタンドが爆発した。



 0ー2ツーストライクからの3球目。


 

 全米選抜の3番バッターが豪快にヘルメットを飛ばして尻もちを突いた。



 101.9マイル。


 ・・・163.9922


 

 西崎が三塁側スタンドに右手を突き上げて、ゆっくりとマウンドを降りる。


 ダグアウトに戻る大沢と並んで、一言二言言葉を交わしている。


 その二人の間を押し退けるように駆け抜けた水野が、ダグアウトで待つヒロとハイタッチをしていた。



 ・・・



 祥華の指先が右の頬を撫ぜた。


 ・・・あれ ?


 同時に左の頬も何かが伝った。


 驚いて頬を触ると、指先が濡れた。


 ・・・


 俺は…


 祥華の腕の中にいた。


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