正義感の強い人

 

「確かにこっちに来た当初、あいつエラく尖ってたっけ」


 ・・・いきなり西崎とやり合ってたし…


「こっちに来てからも、ずっとラインのやり取りしているお友達がいて… 綾海あやみって言うんだけど、綾海は繞清じょうせいに進学したの」


「甲子園ベスト4…水野の高校だ」


「そう、水野くんと同じ高校に進んだ綾海からは、その都度いろんな情報を貰っていたから、私もあの時の状況をよく知ってたの。だから私、南洋大に来た水野くんの事が心配で、いつも野球グランドに行ってた」


 ・・・知ってる


「情報って “ ドラフト拒否 ” の事とか ?」


「甲子園で大活躍して、地元の球団にドラフト1位指名されて…横浜の英雄って言われて、テレビでも密着されて」


 祥華がそこで一度小さな吐息を突いたので、俺が言葉を引き継いだ。


「交渉を拒否して、ブルーベイズのスカウト部長が退団に追い込まれて “ 氷の貴公子 ” って呼ばれて…か」


「うん・・・でも・・・だって水野くんの夢はプロ野球の選手になる事ではなかったから…」


「高校球児の全てがプロ野球選手を夢見ているわけじゃない」


 しかし、高卒でドラ1…しかも地元球団。


 “ 小さい頃からの夢が叶った高校生 ”


 世間もマスコミもそう言って、祝福するだろうな。


「そう…それなのに……あの後、水野くんの家、大変だったらしいの。家の窓ガラスは割られるし、車は傷だらけにされるし、町中に中傷ビラは貼られるし……水野くん、4つ下に栞ちゃんっていう妹さんがいるのだけど、登校拒否になって引きこもりみたいになっちゃったらしいの」


「・・・」


 ・・・言葉がないな


「だからすごく心配だったの。でも…」


「ん ?」


「でも結局、こっちでは一度も話せなかったけど…」


「あいつは祥華に気づいていただろ ?」


 ・・・何せ、あのお嬢様ファッション


「水野くんが南洋に来てすぐの頃、グランドで一度だけ目が合ったの。笑って、手を上げてくれたけど…その時に思った、“ すごく変わっちゃった ” って。私、何て声をかけたらいいのかわからなかった … だから話してもいない」


 ・・・おそらく…


 あいつからは、もっと声は掛けづらかったんじゃないかな


 スタンドの祥華、すごく目立ってたし…


「でも、グランドには通ってたよね ?」


「貴さんがいたから…」


 祥華は苺サンドに手を伸ばしながら、平然と言った。

 これだけ喋りながら、さっきから結構食べてる…しかも意外と食べるの速い。


 ・・・まあ、そう言う俺も祥華の倍以上、食ってたが…


 ・・・じゃなくて


 俺 ?


「・・・俺 ?」


「いつも仲裁してたから・・・」


「・・・俺が ?」


「私、ずっと見てたの。正義感の強い人だなって」


「・・・おれ・・が ?」


「西崎くんが、誰かとケンカするたびに必ず貴さんが止めてた」


「・・・いや、ケンカはだいたいヒロが…」


「ケンカを止めに入った杉村くんが弾き飛ばされて、それを貴さんが助けたり、監督に殴りかかった西崎くんを宥めたり」


「あれはヒロの機転で大沢と和倉が…」


「貴さんがいなければ、あのチームバラバラのままだった」


 ・・・スタンドからは、そう見えてたのか


「いや、実際は…」


「でも、そんな貴さんが…」


 ・・・しゃべらせて


「肩を痛めてピッチャー出来なくなってからは、チームの結束が一気に高まった」


「いや、そこは深町のおっさ…」


「私、ずっと見てたの。貴さんがいたからあのチームはどんどん団結していって、そして強くなっていった」


 ・・・んー…放っておくか


「そしたら、いつの間にか昔の水野くんに戻ってたの」



 ・・・なんか視点が変わってる ?



 ・・・まっいいか


 

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