こいつらより俺の方が凄い
白い空間に戻って来た。
天井も壁もフローリングも、そして背中と尻がむず痒くなる高級感溢れるソファーも真っ白だった。
落ち着いて見渡すとずいぶんとシンプルなリビングだ。
ただし一箇所だけ
蔦が絡まった木枠が壁一面に組み込まれていた。
一つが30×30センチほどの木箱になっていて、それぞれ中にはありとあらゆるモノ・・・風景画の額、インテリアっぽい無機質なミニスタンド、木彫りのインディアン、臙脂色の壺、AMGの模型、35ミリ一眼レフカメラ、…顕微鏡 ? なんかが無造作に並んでいた。
だがよく見るとこれは本棚か。
至るところにハードカバーの専門書が並べてあったり、いい具合に倒れていたり…あれはわざとか ?
科学、経済、医学、建築、宗教。
意外と哲学書らしき書物は見当たらない。
哲学者ったってソクラテス、ニーチェ、プラトンくらいしか知らんけど…
要するにあの壁は、天野教授の趣味の世界か。
そしてその反対側、やはり壁一面に巨大テレビ。
液晶の高さが1メートル近くありそうだ。
あまり近づくと絶対酔う。
その大画面の液晶に特徴的なクローズドスタンスが映っていた。
左打席の水野。
“ 水野くん、いけえー ! ”
あれは祥華の声だったのか ?
・・・
気配に振り返ると、祥華が画面を見つめていた。
サマードレスの上に割烹着。
・・・水野を見ていた
「実はキッチンがすごい事になってるの。少しお片付けしてくるから、貴さんはごゆっくりとお友達の応援をしていてね」
「水野の打席…」
俺は気後れしながら、背中を向けかけた祥華に声をかけた。
「えっ ?」
「見なくていいのか ?」
祥華は画面に目を戻した。
「大丈夫。それよりお片付け終わったら、ここでお弁当食べましょうね」
祥華は爽やかに目を細めて、リビングから出て行った。
・・・大丈夫 ?
って何。
うーん。
モヤモヤが止まらない。
結局、水野は三振だった。
日本は初回、三者凡退に終わった。
アメリカでの日本選抜打線はずっと湿りっ放しだった。
水野も大沢も葛城も、4番を打つ明治の大砲、塔馬正宗も全米選抜のスーパースターに相当手を焼いていた。
だいたい、初見で捉えられるほど簡単なピッチャーじゃないし、そもそも気合いの入れようが違う気がする。
MBLのスカウトにアピールする事しか頭にないピッチャーと、観光気分が抜けないバッターでは勝負以前の問題だ。
マウンドのアウグストゥス・ジノはプエルトリコ出身の天才投手。
もしかしたら彼の人生で最も重要なマウンドになるのかも知れない。
この日の成否が彼の人生、家族の幸せ、一族の希望を左右するのかも知れない。
背負っている重みが違い過ぎる。
そしてマウンドに西崎登場。
なんと、3度目の登板らしい。
第2戦で5イニング、第4戦でも2イニング投げて、この日は連投になる。
とにかくメジャーのマウンドで投げたくてしょうがないのだろう。
しかし結果はイマイチだった。
要するに力み過ぎ。
ヤツの事だから、メジャーのスカウトにアピールする気満々なのかもな。
こいつらより俺の方が凄いぞってな。
だが・・・
俺もそう思う。
だから・・・
それを証明してやれ。
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