ドライブ
あの日の来橋教授の講義には、ジョーも島も衝撃を受けたと言っていた。
祥華なんて憤慨していたようだった。
何度も言うが、俺ははっきり言って野球しかして来なかった。
だから来橋教授の理不尽な話にも、頭の中が未熟過ぎてショックを受けるほどの大人でさえなかった。
ネットワークの悪魔と言われても、サイバー犯罪対策室が、コンピュータ犯罪の進歩に付いていけないと言われても……ましてや労災隠しとか、派閥の足の引っ張り合いとか言われても、まったくもってピンと来ない。
ただ、警察組織に対しての嫌悪感はあった。
『 〜 警察社会は “ 手柄を上げる ” 事が至上命題であり、警察組織の中で “ 防犯 ” や “ 地域住民の安全 ” の優先順位は決して高くない。警察組織は、上司(キャリア)の株を上げる事こそが使命であり、上司に恥をかかせない事が最も重要なミッションである 〜 』
あの言葉を法曹界のスペシャリストが、マジで断言するのか。
そこまで権力にひれ伏さなければ、生きていけないのか。
上司に恥をかかせない事が、部下として大事な役割なのは分かる…がもっと大事なのは、現場を知らない上司に間違った判断をさせない事こそが、部下の一番重要な務めじゃないのか…なんて考えたりしていた。
・・・
ふとゾウアザラシを思った。
甲子園がフイになろうが、仲間たちを失望させようが、そんな事はまったく眼中になく、ただただヒロの妹を守ろうとしていた不器用な男。
弱い者に寄り添う。
それが
俺は何となくそう思っていた。
「気晴らしに絶叫マシンにでも行くか ?」
祥華が来橋教授の話に落ち込んでいたので、俺の高校時代を思い出して誘ってみた。
しかし祥華は、俺から誘われるのを待っていたようだった。
「それより貴さんの運転でドライブがしたい。いい ?」
・・・でたっ
・・・だめ ? じゃなくって、いい ?
「・・・いいよ」
俺は天野教授から車のキーを預かっていた。
メルセデス・AMGとかいうゴッツイ外車の鍵。
今どきフェンダーミラーのクラッシックカーみたいに古いヤツだった。
天野教授は長年、そんな車を所有しておいて、ふだんはスズキのジムニーに乗っている。
だんだんデカい車に乗るのが億劫になって来たらしい。
だから時々、AMGのエンジンを回して欲しいと言って、俺にキーを渡した。
祥華とは護衛係以来、何となく付き合うようになっていた。
島の話だと大学では公認カップルになっているらしい。
と言っても大したデートもしていないが・・・
それにしても、何故こんなお嬢様がいつも俺と一緒にいるのかは謎でしかない。
きっと “ 何かと便利だから ” って事なんだろう。
要するにボディガードをずっと継続しているようなものだが、俺も特に嫌でもなかった。
意外と気が合う。
お互いに物珍しい存在だっただけかも知れないが、まあそんなのも悪くはない。
なんて思いながら、実は祥華とのドライブに結構舞い上がっていた。
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