最後のマウンドは …
緊急登板の大石は、大阪体育戦の乱調が信じられないような好投を見せた。
適度に力を抜いたストレート(それでも最速152キロを記録)をコースぎりぎりに決め、丁寧なピッチングで 7回を5安打1失点に抑え、西崎の代役として充分以上の活躍を見せてくれた。
深町監督が創り出した “ 最高のアスリート ” は大石龍太郎かも知れない。
高校時代、
しかしすぐに深町監督から投球禁止令を出された。
フォークの投げ過ぎと、野球筋肉による躰のアンバランスを厳しく指摘された大石は一年間の肉体改造の日々を送った。
ひたすらの背泳ぎ地獄。
さらに生涯に渡り、フォークボールの投球制限が言い渡された。
大石はそれを35歳になった今現在まで守り通している。
まさに “ 意志の男 ”
そして今も尚、球界ナンバーワン守護神と呼ばれ続けているのだ。
大石龍太郎はある意味、投手として挫折した俺の分身のような存在であり続けてくれた。
少年の肩肘を平気で酷使する、勝利至上主義の虐待に打ち勝った男なのだ。
大沢のスリーランで3点を先行された東洋大は、すぐに不調のエースを降板させて小刻みな投手リレーに切り換えた。
実に 7人のピッチャーをマウンドを送って来たのだ。
南洋打線は毎回チャンスを作るものの、打席に立つ都度初対戦ピッチャーとなると、さすがに打ち崩すまでにはいかず、残塁のヤマを築く事となった。
試合は 3対1のまま 8回のマウンドに三枝が立ち、危なげなく3人を打ち取った。
すでにこの頃から三枝のピッチングは安定感抜群だった。
そして最後のマウンドは杉村裕海。
これはみんなで決めていた事だった。
“ ヒロを胴上げしたい ”
チームが弱い時代からひたすら努力して来た小さなエース。
このナックルボーラーこそが、南洋躍進の原動力だった。
165センチの「小さなエース」が投げる “
ゆらゆらと舞い落ちる木の葉 ” 一球一球に、球場全体が揺れた。
ヒロは内野に3つのゴロを打たせて、淡々と最後を締め括った。
マスクを跳ね上げた大沢が、右手を突き上げた。
その瞬間、ダグアウトから凌たちが一斉に飛び出した。
ジョーと島がオニのようなダッシュを見せた。
リキが、コータが、東山がマウンドに突進する。
水野がゆっくりとマウンドに駆け寄る。
一塁側、三塁側、バックネット裏、レフトスタンド、左中間スタンド、右中間スタンド、ライトスタンド、2階席、3階席…
観客が全員立ち上がっていた。
全員が頭の上で手を打ち鳴らしている。
・・・終わった
俺もマウンドまで必死に走った。
神宮の胴上げ投手となったこのマウンドが・・・
俺が見た、ヒロの最後の雄姿だった。
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