天邪鬼の偏屈野郎
「そのスカウト部長ってのが、アイツの親父だった ?」
「そうです。この2、3日、ネットでは “ 因縁の対決 ” とか言って、結構盛り上がってる話題ですよ。親父さんのその後の再就職話やら、陣内さんの復活劇なんかが、有る事無い事好き勝手に書き込まれてました」
「じゃあ、ウチの連中もみんな知ってる話なのかな ?」
「みんな何も言わないんで分かりませんけど
、
・・・ネットの話題なんて、俺キョーミねーし
「それが何故、いま名峰にいるんだ ?」
「
「お前、めちゃくちゃ詳しいな」
「高校の後輩ですから」
「えっ ! あの
「俺が暁國に入った時には、あの人 2年生エースでした。その当時からすでにあのキレッキレのシンカー投げていましたよ」
「そんな凄いピッチャーが、ドラフトでは指名されなかったのか ?」
「今みたいなコントロールありませんでしたから・・・だから親父さんのコネみたいな形でプロ入りしてたら、結構苦労してたかもしれませんね。あの人は名峰の一般入試から這い上がったんです。そのモチベーションの源がキャプテンであり、親父さんの失業なんでしょうね」
「じゃあ水野は、気不味い対決を強いられてるわけだ」
「だから、陣内さんはああやって悪態をついて、水野さんに対して自分を奮い立たせてるんだと思いますよ。昔から天邪鬼で偏屈でしたから、逆にマスコミやら、ネットの書き込みなんかをおちょくっているんじゃないですか」
「水野こそいい迷惑だな」
「たぶん、キャプテンをおちょくって混乱させて、南洋を完封して、これまでの鬱憤を晴らして、すべてをチャラにするっていうのを狙っているんだと思います。まあ、いろいろ複雑な思いもあるんでしょうが・・・」
「めんどくせー野郎だな」
「見た目ほどの悪人ではないです。・・・おっ !」
ヒロが130キロのフォーシームで福田を打ち取った。
・・・が
打球がフラフラっとサードの後方に上がった。
水野が懸命に追っている。
力丸も背走する。
島も突っ込んで来ている。
3人の真ん中に打球が落ちて来た。
・・・微妙・・・だが島が間に合うか ?
水野の横っ跳び。
・・・届かない
すぐに島がスライディングで飛び込んで来た。
島がキャッチしたようにも見えたが・・・水野と重なって、ボールが跳ね上がった。
浮いたボールに力丸が跳びつく。
3人が交錯した。
・・・捕ったか
「セカンッ !」「アウトッ !」
塁審と大沢の声が重なった。
加蓮セヴェリーノがタッチアップで二塁に向かって爆走していた。
力丸がすぐに起き上がって、二塁に送球・・・ボールがギューンと浮き上った。
送球はコータの遥か頭上。
これが大暴投になった。
それを見て加蓮が二塁を蹴る。
・・・やった !
コータの背後に、ジョーがヌッと現れた。
ボールを受けたジョーがそのまま二塁に突っ込む。
ジョーに気付いた加蓮が、慌てて二塁に戻ろうとして棒立ちになった。
勢いあまったジョーが加蓮に抱きつくようにタッチ。
「アウトッ !」
・・・よしっ ! ゲッツー
これは力丸得意のプレー。
間に合わないと思った瞬間、大暴投のふりしてバックアップのライトに送球する。
暴投を見たランナーは必ず、三塁を伺うために、二塁ベースから離れる。
そこを狙ったセコいプレーだが、これでヒロも救われるのだ。
俺がライトに入っている時にも、やった事がある。
また守備で救われた。
チェンジ。
その裏。
天邪鬼の偏屈野郎の投球は、完璧だった。
キレッキレのスライダー。
唸りを上げて襲いかかって来るカッター。
そのカッターと同じ軌道から深く沈むシンカー。
そして、加治川のリードと選抜二遊間コンビの守備。
6回裏。
南洋の下位打線は為す術もなく、凡打を重ねる事になった。
6回を終了して
試合は終盤戦に入った。
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