ドキュメンタリー
「シモさんはキャプテンが何故、氷の貴公子って呼ばれるようになったか、知ってますか ?」
凌が俺の顔を覗き込むようにして言った。
「・・・常に冷静沈着で決してミスをしないからじゃないのか ?」
「今じゃ、みんなそう思っているみたいですね。しかもその言葉にも尊敬とか憧れみたいなものが含まれてる」
「違うのか ?」
「はい。呼ばれ始めた当初は、悪意しか含まれてませんでした」
「当初って ?」
「4年前のドラフトです」
「水野がブルーベイズの1位指名を蹴ったから ?」
「そうです・・・よっしゃー !」
凌が拳を振り上げた。
ヒロが散々粘っていた嘉村から、三振を奪った。
「葛城のスーパープレーとキャプテンのエラー、こういう悪い流れの時のヒロさんって、ヤバいくらい凄いですよね。めっちゃ暑くなって来たんで、さすがにちょっと心配ですけど・・・」
凌がそう言いながら、一塁後方に目をやった。
一塁後方・・・ブルペンでは三枝も準備を始めていた。
大石は一度肩を作り終えたのか、今は三枝の投球を見ている。
今日はヒロ〜三枝の継投予定。
そして明日決勝の先発予定が西崎。
しかし、今日負けたら明日はない。当然南洋の四本柱は臨戦態勢だ。
6回、ノーアウト一塁で打順が1番の嘉村に還った場面での三振。
さすがヒロ。
気温33℃ 湿度51%
どっちも急上昇。
ヒロの味方であるはずの湿度も、こうなると両刃の剣になる。
たぶん低湿度で苦しみ、初回からアドレナリン全開になったはず。
ピッチャーは立ち上がりに苦しむと、アドレナリンが大量に分泌され、集中力が異常に高まる。
脂肪燃焼や代謝も促され体温が急上昇する。
そして、通常の何倍もの体力を消耗するのだ。
その状況の中、気温湿度の急上昇。
相手は名峰。
さすがのヒロも疲労困憊であろう。
ワンアウト一塁。
バッターは、2番福田。
「しかしあの時、水野はドラフト前からプロ入りの意志なしって言ってたよな ?」
「そうです。あの時はすでに行く大学も内定してました。南洋じゃなかったですけど」
「じゃあ、ドラフトで強行指名したブルーベイズが悪ぃーじゃん」
「常識ではそうですよね。でもマスコミが感動的なドラマを演出したんです」
「ドラマ ?」
「ドキュメンタリードラマです。当時、ブルーベイズのスカウト部長だった、伝説のスカウトマンが水野薫を獲得する為に乗り出したんです。それを密着取材で追ったドキュメンタリーが大評判、すごい視聴率だったそうです」
「水野は堪らんな」
「伝説のスカウトマンがあの手この手でキャプテンに接触しようとするのですが、キャプテンは交渉を一切受け付けませんでした」
「まあ、水野ならそうだわな」
「そのスカウト部長、ドキュメンタリーで “ プロのスカウトマンとして職をかけても ” なんて言っちゃってて・・・」
「結局、辞める事になったとか ?」
「はい、
・・・じんのうち !
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