前エース

 


 “ エースのじんのうちです ”


 名峰大の先発は、記者のインタビューに自らそう名乗って高笑いしているような変な奴だった。


 だろうが、であろうがどうでもいいが、第一戦と準決に先発して来るくらいだから、只者でないのは間違いない。


 ただ、エース北見とはまったく違うタイプ。


 右サイドハンドの曲者。


 そして同じサイドハンドでも、三枝ともずいぶんとタイプが違う。


 まずストレートを投げない・・・と言うより投げられない。


 曲ってしまうらしい。


 本人はジャイロボールとか言っているらしいが、要するにナチュラルカッターだ。


 これがいつ曲がるか、どれくらい曲がるか分からないと、本人が言うほどの超クセ球。


 球速は150キロを超える。


 そして140キロ台の高速シンカーと、大きく曲がる完璧横回転のスライダー。


 この三球種の制球が相当いい・・・いつ曲がるか分からないカッターのコントロールが何故いいのかは謎だ。



 一回戦の城星大戦では、5イニングを完璧に抑え、余裕の温存降板をしていた。


 打者を打ち取ってマウンドで不敵な笑みを浮かべる。


 透かした態度が妙にムカつく野郎だ。


 



 初回。


 陣内じんのうちの投げたボールは全球クセ球だった。


 それをコースギリギリに突いてくる。


 フロントドア、バックドアを丁寧に狙う。


 本人も分からないと言う、変化の加減で入ったり外れたり。


 しかもそれが全て150キロ超え。




 2 ー 2 ツーエンドツーからの5球目。


 コータが見逃がしの三振。



 ・・・手が出なかった ?



 この時点ですでに嫌な感じがしていた。




 そして力丸がピッチャーゴロ。


 ボールを掴んだ陣内の送球は超山なりボールだった。


 全力疾走の力丸は一歩及ばずアウト。


 

 ・・・挑発 ?




「熱くなるなよ」


 力丸がおちょくられ、いきり立ったコータに、水野がひと声をかけてから打席に向かった。



「自分に言い聞かせてやがる」


 西崎が水野の背中から茶化した。



 確かに水野の首筋が固くなってるように見えた。

 氷の貴公子なんて言われているが、意外と挑発には敏感な奴。


 意外と言えば、西崎は敵の挑発に乗らない。


 味方の挑発にはすぐ乗るが・・・


 


 水野にはボール球が先行した。



 3ー1スリーワンからの 5球目。



 内角・・・153キロ。



 鋭いスイング。



 食い込まれたっ !



 打ち上げた。



 打球が真上にあがった。



 前に出ようとした加治川を、陣内が制した。


 だが、陣内はボーっと突っ立ってるだけだった。


 ボールが落ちてきた。


 陣内は顔の前を振り払うように、グラブを薙いだ。



「アウト !」



 ・・・えらく焚きつけて来るじゃん




 初回は両チーム三者凡退。



 ・・・しかし内容は大違い


 

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