準決勝


 全日本大学野球選手権大会

 明治神宮球場


 準決勝 第一試合

 名峰大学九州六大学南洋大学東海地区


 快晴 気温24℃ 湿度19%


 入場者数 31800人。

 満員御礼。

 場内の熱気で気温はプラス 5℃か 。


 一般的にマイナーと言われる大学野球で、この観客動員数は異常だ。


 名峰大はこの大学選手権 7連覇中で、秋の神宮大会も 6連覇中という大学野球界の絶対王者だった。


 神宮46連勝中。

 この球場で、6年以上負けがないチーム。

 

 そして日本中が注目する二人。

 球界の至宝、葛城雄一郎。

 Mr.パーフェクト北見将剛。


 その絶対王者に挑む新風、南洋。

 能天気なチームカラーと、びっくり箱のような野球。

 そしてナックル王子、アイドル杉村裕海の人気。

 さらに氷の貴公子、水野薫の存在。

 水野の異名の由来は知らないが、明るいキャラ揃いの中、常に沈着冷静、仏頂面のギャップは意外と世間の好感度が高かった。


 プロ顔負けの人気チーム同士の決戦。

 殺伐とした社会背景。

 徹底的に煽り立てるマスコミ。


 様々な要素のベクトルが、日本中の視線をここに集中させたのであろう。




 先攻

 名峰大学のスターティングラインナップ。


 1番 ライト嘉村

 2番 レフト福田

 3番 セカンド紀尾井

 4番 ショート太刀川

 5番 センター葛城

 6番 キャッチャー加治川

 7番 ファースト支倉

 8番 サード田牧

 9番 DH 加蓮

   ピッチャー陣内


 一発のある選手が下位に並ぶ独特のラインナップ。

 この大会、ここまでの 3試合でチーム本塁打が 7本。しかし 1番から 4番に本塁打は出ていない。

 まるでコータが 4人続いて、あとから大沢やら西崎が出て来るようなラインナップ。

 見るからに嫌らしい並び。

 スモールに見せかけたパワーベースボール、と評したのは西崎だ。

 ・・・確かに



 後攻

 南洋大学のスターティングラインナップ。


 1番 セカンド辻合

 2番 サード力丸

 3番 ショート水野

 4番 センター西崎

 5番 キャッチャー大沢

 6番 DH下村

 7番 ライト暮林

 8番 ファースト森田

 9番 レフト島

   ピッチャー杉村


 神宮に来てからは不動。

 リーグ戦ではベンチ入りメンバーを全員使うような采配をしていた深町監督も、ここに来てからはほとんど動かなくなった。

 もしかしたら神宮では水野に丸投げしたかも知れない。

 監督はどう見ても観光モードだ。


 神宮4試合目。


 夢のような日々。

 この場合の “ 夢 ”は、現実感のない霞がかかったような、と言う意味であって浮ついた感情はない。

 何せ、俺は毎試合、引退試合のつもりで挑んでいたから。

 負けた時点で、俺の野球バカ生活が終わる。

 だから、いち打席ワンプレーをこれが最後かも知れないと思いながら、必死にプレーしていた。

 それはジョーも島も同じ。

 ヒロ、水野、大沢、西崎の 4人は秋まで続ける。きっとドラフトでも上位指名される。

 しかし 4人以外の 4年は春の大会後に引退するのだ。


 そう思いながら、遂に準決勝。

 相手は絶対王者。

 こんな濃密な日々を過ごせている事が不思議だった。


 監督に、仲間に、家族に、友達に、学校関係者に・・・・・・感謝。


 とにかく感謝。

 そんな謙虚な感傷で臨んだ準決勝。


 試合が始まった。

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