スピードガンコンテスト

 

「どうしてそこで突然、秋時がピッチャーになるんだよ ?」


 透かさず後ろから島がヒロに突っ込む。


「あっ、秋時もボーイズまでピッチャーやってたから」


 ヒロが後ろを振り返って応えた。


「えーっ、なんでキャッチャーになっちゃったの ? 超もったいないオバケじゃん」


 ・・・島に同感だ


「佐久間さんに憧れたって言ってたっけ」


 ・・・あれ ?


「しろくまのキャッチャー佐久間義久 ?」


「うん、ずいぶんとシブい小学生だよね」


 ヒロが大沢を指差しながら、自分で言った言葉に爆笑している。


「それ、シブ過ぎだろ。マジで勿体ない」


 ・・・変だな



 ウォーッ!


 突然の大歓声で、ヒロと島の会話が止まった。


 和倉のフォーシームが162キロを記録。

 なんとMAX更新で7回のピンチをまた凌いだ。


 後半になればなるほど、球速が上がる。

 和倉成亮の真骨頂だ。


 ・・・さっき


 最初ヒロは “ ぼくが加治川みたいに大きくてうまかったら ” って寂しそうに言っていたが・・・途中から話を逸らしたような


 ふとジョーの訝しげな目と合った。

 やはり、ジョーも同じ事を感じたようだ。


 あれだけの身体と素質を備えた野球少年が、ボーイズでピッチャーからキャッチャーに転向するか ?

 ふつうは指導者が許してくれないだろう。


 確かに全盛期の佐久間捕手は、俺も好きだったが・・・特に肩が強いわけでもなく、打撃成績なんて平均以下のキャッチャーだ。


 小学生がピッチャーをやめてまで・・・当時の俺には、到底考えられない決断だ。

 大沢らしいと言えばそれまでだが・・・


 何せついこの間、大沢が遊びで投げた豪速球をチーム全員が目撃したのだから。

 あれを見たら誰だってもったいないと思うだろう。


 ヒロが言い出して、遊びでやったスピードガンコンテスト。

 西崎や大石の球速を記事にするために、南大の担当記者がいつもスピードガンを持ち歩いていた。

 それを借りてちょっと息抜きの遊びをした。


 結果はやはり157キロで西崎がトップだった。2位が154キロで大石と水野。

 水野の154にはみんなビビっていたが、俺は驚かなかった。あいつがとんでもない強肩だってのは、普段の送球を見ていれば分かる。

 あと力丸が147キロだったが、これも予想の範囲内。

 ちなみに俺は144キロだった。

 

 大沢はずっとみんなの球を受けていて、投げようとはしなかった。

 それを西崎が無理やり投げさせた。

 西崎自身も確認したかったのかも知れない。

 俺も見てみたかった。

 155以上が出るかも、とは思っていた。


 161キロだった。


 それこそボーイズの時以来なら、およそ10年ぶりのマウンドか ?

 


 北見が161キロのストレートで、24人目のバッターをセカンドゴロに打ち取った。


 パーフェクトまであとアウト3つ。


 8回を終了して 0 ー 0。


 とんでもない投げ合いが続いていた。



 大沢がずっとピッチャーをやってたら・・・


 それを誰よりも想像し、もったいないと思い続けて来たのはヒロかも知れない。

 


 

 



 


 

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