大人の事情

 

 “ ガリバー軍団 余裕の神宮初白星 ”


 “ 攻・走・守 全開 ! 強豪を8ー0で圧倒 ”


 “ ナックル王子のさわやか三振ショー ”


 “ 西崎158キロで圧巻の三振ショー ”


 “ 南洋の貴公子健在、初戦を5の5 ”


 “ 大技小技、脅威の3連発&驚異の9盗塁 ”



 各スポーツ紙は、南大の初戦突破を様々な見出しで讃えてくれた。

 俺たちはギンギンに称賛され、ガンガンに持て囃された。


 マスコミはいつの世も、トップアスリートにアイドル性を求め、10年にひとりの天才を発掘したがるものだ。


 実際、南大はネタの宝庫だったし、東北福祉大戦はそれだけ派手な内容でもあった。


 ヒロのナックル、西崎の豪速球、水野のスター性といった、元々注目度の高い選手の活躍に加え、大沢の連続バントヒットからのホームラン、コータの5盗塁、更に地味な所では看板に直撃した俺のホームランや、森田のファールボールをスタンドからもぎ取ったファインプレーまで、各局のワイドショーが大袈裟に騒ぎ立てた。


 これはまさしくマスコミが大好物な素材ばかり。


 しかしこれには、日本の深刻な社会背景が絶妙に関係していたのだった。


 奇しくも神宮大会と同時進行的に発覚した警察の不祥事&隠蔽オンパレード。


 愛知県警トップ指示による覚醒剤取締法違反もみ消し事件。

 岐阜県置川署のまるで犯人を殺人へ導くかのような無責任、不適切な対応、それを隠蔽するための証拠隠しが発覚した置川事件。

 滋賀県石岡署の度重なる市民の相談に対し、業務怠慢的な対応で殺人事件まで発展させてしまった石岡事件。


 連日、ワイドショーでは警察の不正を大々的にぶち上げ、暗いニュースから一転させて番組後半で南大の躍進を盛り立てる、といった光と影手法で視聴率を稼いでいた。


 日本警察の不祥事連鎖、警察改革、そして月見酒事件。

 俺を “ 負け犬 ” へと追い込んだこの流れは、実は青春の真っ只中のこの時期から始まっていたのだ。



 “ 腐った警察組織 ”

 そんな暗いニュースを吹き飛ばし、国民に元気をくれる“ 南洋旋風 ”


 俺たちは、そんな “ 大人の事情 ” 的な空気などまったく気にもせず、大人の望む通りの躍進を続けて行ったのだった。


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