躍動、辻合航汰

 

 3回裏


 初球を叩いた打球が、狙い澄ましたように一、二塁間を抜けた。

 先頭のコータがまたしても出塁した。

 コータはリカルドのストレートを完全に捉えている。

 

 

 力丸の初球。

 いきなりの盗塁。


 ・・・すごいな


 リカルドも決して走りやすいピッチャーってわけでも無さそうだが・・・


 2球目。

 まさかの三盗。


「セーフ !」


 ・・・悪い流れを断ち切ろうとしてる



 2 ー 2ツーエンドツーからの5球目。

 力丸がレフトに打ち上げた。

 

 ・・・浅い


 しかし、コータは迷いなくタッチアップ。


 レフトから低いボールが返って来た。


 ・・・いいボール

 

 ボールが滑るようにバウンドして、真っ直ぐにキャッチャーミットに収まった。

 

 コータが回り込むように、足から飛び込んできてホームベースを左手で掃いた。


 ベースを覗き込むように、低い態勢をとっていた主審の右手が横に開いた。


「セーフ !」


 ウォォォーッ !


 スタンドが一気に弾けた。


 ・・・コータひとりで切り拓きやがった


 やっと先制出来た。


「ん ?」


 サードが塁審になにかアピールしている。


 塁審が主審の所に飛んできた。


 二人で頷き合っている。


「フライングか ?」


 隣でジョーが呟いた。


 ・・・フライング ?


 塁審が三塁ベースまで戻った。


「アウト !」


 ・・・コータの離塁が早かった ?


 ・・・焦った ?


 コータが肩を落としてダグアウトに戻って来た。


「わりぃ。俺のフライがショボ過ぎた」


 すぐに力丸がコータを迎えに出た。


 ・・・断ち切れなかった


「コータ、その調子でガンガン行こう」


 ウェイティングサークルから、大沢が声をかけた。


 コータが大沢を振り返った。


 大沢が満面の笑みで親指を立てた。


「点が入んねーのはたまたまだ。お前のせいであいつヘロヘロだし」


 西崎が親指でマウンドを指した。


「・・・はいっ ! 御意 !」


 コータが恥ずかしそうな笑顔で、兄貴分に親指を向けた。


 ・・・御意の使い方が変だが・・・まあいいムードだ

 


 ツーアウト。


 水野はフルカウントまで粘った。

 そして147キロのカッターを、しぶとくセンター前に運んだ。


 ・・・よしっ


 確かにリカルドはヘロヘロだった。

 守備に何度助けられても、乗れないもどかしさ。

 いや、これはもうウチの打力が勝っているとしか言いようがない。


 続く大沢の初球。


 水野が走った。


「セーフ !」


 ・・・これはもう流れがどう、とか言う問題じゃないな


「ウソっ !」


 大沢が三塁線にセーフティバント。

 サードが一歩も動けない。


 ・・・セコいのか ? 大胆なのか ?


 ・・・よう分からん


 ツーアウト三塁、一塁。



 そして天才。


 ・・・


 が、歩かされた。



 ・・・マジか



『東北福祉大学、ピッチャーの交代をお知らせします』




 ・・・マジ ?


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