彼女でも来てるんか ?
2回表。
俺は淡々と強打者たちを、打ち取って行くヒロを眺めながら、己に説教をしていた。
立ち上がり、コントロールに苦しむ豪速球投手。
そこを上手く突いてコータや力丸が攻めたが、まさかのゲッツー。
ツキがなかった。
ラッキーとばかりに、立ち直りかけたピッチャーのリズムを水野と大沢がまた狂わせた。
ツーアウト満塁。
あそこはつなぐバッティングで、リカルドを一気に攻略する場面だ。
あの場面で俺は何故に “ 一発狙える ” なんて思ったんだ ?
コータや力丸のような、センターに打ち返すバッティングをしようと決めて、打席に入ったはずなのに。
ひとりで “ ええカッコ ” したかっただけだ。
アホとしか言いようがない。
“ クッソー ”
この回ヒロは、ツーアウトからランナーを出した。
当たり損ねのボテボテを、サード力丸がボールを握り損ねた。
力丸だってたまにはそういう事もある。
しかも記録はヒットだ。
しかし盗塁を狙ったランナーを、大沢がきっちりと刺して、この回も三人で終わらせた。
相変わらず、とんでもない肩。
一度、これを見せられると相手はまず盗塁して来なくなる。
こうしてピッチャーの負担を軽くしていくのだ。
特にヒロや三枝みたいな技巧派にとって大沢の肩ほど心強いものはないだろう。
・・・それに比べ俺は
2回裏。
先頭のジョーがスライダーをセンターに弾き返した。
・・・うまいっ !
・・・あのバッティングだ
“ クッソー ”
続く森田がしっかりと送った。
157キロのストレートを丁寧にバント。
一年が、大した落ち着きぶりだ。
ワンアウト二塁。
このチャンスに島が、143キロのスライダーを完璧に捉えた。
見事な流し打ち。
一、二塁間のライナー。
しかしこれをセカンドが超ファインプレー。
まるでコータのようなダイビングを見せた。
飛び出したジョーは戻れない。
またしてもゲッツー。
最悪の流れ。
ちぐはぐな展開。
この悪い流れの主犯は間違いなく俺だ。
・・・守りもしないDHが、攻撃で足引っ張ってどうするよ
「さっきから何、ブツブツ言ってんだ」
いつの間にか隣に、巨大なしろくまが座っていた。
目を細めて、投球練習を始めたヒロを見ている。
「いえ、何でもないです」
取り敢えず口元に笑みを
「彼女でも来てるんか」
マウンドに向いていた視線がこっちに来た。
まさかの鋭い眼光。
「あいや、何言ってんです ?」
「チャンスにホームラン打ち損ねて、そこまで凹むんだから、普通女以外ない」
「普通の意味わかりませんし、俺はそこまでチャラくないですって、西崎じゃあるまいしって、そもそも凹んでないですし」
ヒロがまた三振を取った。
早くも5個目。
「まあ、どうでもいいが試合中に反省するなよ」
「えっ ?」
思わず目を向けると、監督の視線はまたマウンドに戻っていた。
「試合の場面場面でベストの反応が出来るように厳しいトレーニングをして来ているんだ。バッターボックスで “ 行ける ” って身体が反応したのなら、それは正しい選択だ。結果なんて気にするな。野球なんて半分は運なんだから」
「・・・」
バッターがヒロのストレートに慌ててバットを出した。
高く上がった打球が一塁側のスタンドに流れて行く。
「うわっ ! ?」
南洋の大応援スタンドに落ちようとする打球を森田がもぎ取った。
目の前の味方のファインプレーで、スタンドが沸き立った。
森田が照れくさそうな仕草で、ボールをヒロに返球している。
ボールを受けたヒロの方が嬉しそうだ。
「あいつの手、マジックハンドだな」
「こういうのヒロ燃えますよね」
「あいつは仲間と楽しい時間が共有出来ればそれで満足だからな。お前も反省なんかしてないでもっと楽しめばいい。せっかくの神宮なんだから」
ヒロは続くバッターから、この日6個目の三振を取った。
「よしっ」
隣に坐る巨大な着ぐるみが、小さなガッツポーズをしながら小さな声を出した。
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