身体が反応したのなら …

 

 

 三年の左腕、切島。


 持ち球は150キロ近いストレート、カーブ、チェンジアップ。


 180センチ、100キロってところか。

 筋肉の塊。

 二の腕、太腿の太さなんか、森田の三倍はありそうだ。尻だって俺の倍か。


 リーグ戦の登板数はチーム断トツ。

 体力が有り余ってそうな面構え。

 

 豪快なオーバースロー。

 ずいぶんと威勢のいいピッチャーだ。

 投球練習中もキャッチャーからの返球を待ち切れないように、一球一球マウンドを下りている。


 左のカーブピッチャー。

 タイミングの取りづらいチェンジアップ。

 俺の一番嫌いなタイプ。


 ・・・よりによって、ここでコイツ



 投球練習が終わった。


「さあ、行こう !」


 三塁の水野が檄を飛ばした。


 ・・・はいはい、いきますよ


 二塁の大沢が肩を上下させて、ぴょんぴょん飛び跳ねた。


 ・・・わかってる。リキむな、だろ ?


「一発狙ったれ !」


 一塁ベースにしゃがむ西崎が楽しそうに声をあげた。

 切島の顔色が変わった。


 ・・・おいおい、煽るなって


 しかし、感情が顔に出るなんて今どき珍しいピッチャーだな。

 そう言えば、ウチのピッチャーはみんなポーカーフェイス。

 何を考えているのか分からない奴ばかり。

 だから妙に新鮮な気分。


 ・・・さあ、来い



 初球


 ふわっと来た 。


 何故か驚かなかった。


 カッとした自分を鎮める為の初球。


 チェンジアップが来る。


 そう感じていた。



〜 試合の場面場面でベストの反応が出来るように厳しいトレーニングをして来ているんだ 〜


〜 バッターボックスで “ 行ける ” って身体が反応したのなら、それは正しい選択だ 〜


〜 結果なんて気にするな。野球なんて半分は運なんだから 〜


 

 左膝に力を溜めたまま待つ。


 引きつける。


 スピードスケーターのような太腿。


 そこを狙って、落ちるボールをぶっ叩く。



 ・・・運がよければ



 真芯で捉えた !



 セカンドの左。



 追いつかれる !



 さっきコータ並みのプレーをした奴。



 そいつが飛んだ !



 取られた !



 ・・・!



 地を這う打球がグラブを弾き飛ばした。



 抜けたっ !



「よしっ !」



 水野が帰った。



 やっと先制 !



 大沢も三塁をまわっていた。



 凄まじい加速。



 センターからストライクボールが返って来た。



 しかしキャッチャーが捕球した時、大沢はホームベースを滑り抜けていた。


 キャッチャーは、すぐさまサードに投げようとしたがそこで動きを止めた。

 西崎はすでに三塁に達していた。


 

 ・・・疾風かぜのようなヤツら


 

 ウォォォーーッ !


 スタンドが360度響めている。


 ヒロが、水野が、大沢が、島が・・・


 ダグアウトの全員が俺に向かって拳を突き上げていた。

 おっ、またボディービルダーが出現した。


 ・・・アホ


 俺もダグアウトに向かって拳を突き上げた。



 そして・・・チラっとその上を見上げた。


 ダグアウトの後方。


 大きな麦わら帽子が、小さく飛び跳ねているのが見えた。


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