第七章 南洋旋風

  【 神宮の頂点を目指した21歳の春 】




 15歳の春、ヒロと大沢に出会い、北高の仲間たちと過ごした高校時代。

 18歳の春、水野、西崎、和倉と出会い、南大の仲間たちと過ごした大学時代。

 卒業後、警察官になって本庁捜査一課の次期エースと呼ばれた24歳までの10年。


 もうすぐ、ショボくれた38歳になろうとしている現在の俺には、眩しくて正視出来ないほどの10年間だった。


 

 最高の仲間たちと出合い、祥華とも出会って、神宮の頂点を目指した21歳の春。


 間違いなくここが俺の人生のピークだ。




 大学4年の春。


 西崎のピッチングが化けていた。

 とにかく荒々しかった。

 小手先のテクニックで、バッターをおちょくるようなピッチングはしなくなった。

 投球フォームが一段と大きくなり、威圧感が凄い事になっていた。

 

 一点リードの九回。

 絶好調だったヒロに胴上げ投手を譲ってもらったマウンドでの連続失投。

 まさかの逆転負け。

 そのあとに見せつけられた和倉の気迫のピッチング。


 恐らく生まれて初めて味わった敗北感。

 天才には許し難い屈辱だったであろう。


 しかしこの敗北感、屈辱は後の西崎にとっては計り知れないほどの大きな財産となったはずだ。


 西崎だけではない。

 打者との駆け引きに夢中だった大沢も、九回、最後の打席で出塁出来なかった辻合、力丸、そしてずっと狙っていたスプリットに掠りもしなかった水野も、この敗北によって何かが変わった。


 ヒロ、三枝、大石もそうだ。

 元々ストイックなこの三人でさえ、目の当たりした和倉のピッチングに心揺さぶられて、さらなる高みを目指した。

 

 あの試合の和倉には、それぞれのケツを蹴飛ばすような衝撃があったのだ。


 

 そして、そんな和倉が神宮の決勝でまたしても、名峰大に屈していた。

 被安打 8 失点 3。

 0 ー 3。


 全国には、あの和倉を攻略してしまうチームもいる。

 俺たちのモチベーションは否が応でも高まった。

 

 



 この春、入部した一年にも後にプロ入りした柿田智秋、森田佳祐、坂城一誠がいた。


 部員数も70名を超え、攻・走・守、すべてにおいて層の厚さを増し、すっかり強豪校と呼ばれる存在になっていた。

 


 特に南洋大の4本柱は、全国の強豪大学を怯えさせる存在になっていた。

 

 杉村裕海、西崎透也、三枝和彦、大石龍太郎。

 今思えばとんでもないメンツだ。


 そんな中で、俺もジョーも島も東山も鷹岡も確実にレベルアップしていた。

 4本柱に加え、打線にも相当な破壊力が備わっていた。



 春の東海リーグは、南大の独壇場だった。

 ピッチャーほとんどの試合で完封リレー、打線は毎試合、二桁得点をあげた。


 南大は圧倒的な強さで、大学選手権の出場を決めた。

 前年度、初戦で大敗を喫した “ 春の神宮 ” 進出を果たしたのだ。

 


 健全な街、南洋市。

 その象徴として、広告塔の役割を背負った南洋大野球部は、神宮で大きく羽ばたく時を迎えたのである。

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