ガリバー打線

 

 春


 全日本大学野球選手権大会。


 

 新緑カラーの人工芝。


 コバルトブルーのシート。


 レンガ色のアンツーカー。


 

 “ 明治神宮球場 ”



 ・・・ここが俺のラストステージ


 なーんてダサいセリフに酔いしれるアホな俺。



 一塁側のダグアウトから出た瞬間、豪雨に襲われた。

 一瞬、足が竦むほどの割れんばかりの拍手だった。


 ・・・すげーっ


 バックネット裏も一塁側も外野も・・・

 拍手は全部、俺たちに向けられていた。


 大応援団。


 よーく見ると知った顔があちこちに見えた。

 一塁側の応援席には、天野教授も来橋教授も来ている。


 ・・・その中には祥華もいる


 しかし、この数は大学関係者だけではない。

 土曜日とあって子供の姿も多い、と言う事は、はるばる家族連れで来ているわけだ。

 

 ・・・そう言えば倉木や佐治、瀬波からもメールが来ていたっけ


 北高野球部の仲間たち。

 きっと彼女と一緒に来ているのだろう。


 ・・・クソーッ


 まさに南洋市から神宮へ大挙襲来。

 

 南洋の町は、東海リーグを圧勝した南大野球部に対する期待値が最高潮に達していた。




[1回戦 仙台六大学代表 東北福祉大学戦]



1番、セカンド辻合

2番、サード力丸

3番、ショート水野

4番、キャッチャー大沢

5番、センター西崎

6番、DH 下村

7番、ライト暮林

8番、ファースト森田

9番、レフト島

ピッチャー、杉村


 すっかり固定されたスタメン。


 に、ひとり新顔。



 最近、南大はスポーツ紙に “ ガリバー打線 ” と呼ばれる事があった。

 長身揃いの打線、という意味だ。


 確かに大沢が190、西崎が189、暮林が186、おれと大石が185、水野が184、鷹岡と東山が183、力丸が181。

 ついでに監督も俺と同じくらい。


 試合によく出るメンバーだけで180センチ以上がこんなにもいる。

 そしてヒロや島、コータなんかが小柄な分、並ぶとデカいやつが余計デカく見える。

 こんなの他チームから見れば怪物集団だ。


 そんな中、新たなガリバーが加わった。

 一年の森田佳祐。

 192センチの超ビッグサイズ、その上身長以上に手足が長く、しかもガリガリのやせっぴー。

 だから大沢よりかなりデカく見える。


 こいつが驚くほど守備が上手かった。

 あのコータが “ デカいのに横の動きがめちゃ俊敏 ” と周りに触れ回る程だ。

 と言う事は手が長い分、守備範囲がめちゃめちゃ広いって事だろう。


「ならファーストをやって見ないか ?」


 コータの話を聞いた水野がそう言い出して、森田のファーストが試された。

 高校時代は外野を守っていたらしい。

 やらせて見ると、打球の処理がめちゃめちゃ上手かった。

 左利きなので一、二塁間側の反応が速く、手が長いので、守備範囲は西崎並みだ。

 そして何より、内野手が安心して送球出来る的のデカさが魅力だった。

 悪送球が悪送球でなくなるのだ。

 内野手にとってこれほど助かる事はない。


 パワーはないが、バッティングセンスもあった。

 選球眼に優れ、空振りが少ないものいい。

 ピッチャーを助ける、という基準で見ると明らかに東山の上を行く。

  

 こうしてチームは、常時 “ ファースト西崎 ” を手に入れた。



 チームの守備体制はもはや完璧 。

 

 不安があるとすれば外野を守る時の “ 俺 ”くらいのものか。


 まあ、そこは頑張るしかない。


 ・・・最後くらい楽しもう



 さあ試合開始だ。


 

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