棒球

 

「おがぁた !」「おがぁた !」「おがぁた !」「おがぁた !」


 一塁側スタンドが燃えていた。


 その大声援のすべてを、自らの体内に取り込むように、尾形が大きく息を吸い込んでから右打席に入った。


 大学四年の秋。

 負ければ尾形は大学野球、最後の打席となる。

 打倒名峰の夢も潰えるのだ。


 西崎がセットポジションに入った。

 気負った様子もない。


 ・・・自然体


 意外だがインプレー時の西崎は、常に冷静、決してリキんだりもしない。


 ・・・頼もしいじゃん

 



 初球。


 アウトローのストレート。


 ・・・やばっ


 ・・・尾形得意の外角


 尾形が左の腰にしっかりと壁を作って、ボールをぶっ叩くようにスイングした。



 ズダンッ !



「ストライク !」



 157キロ。



 ふーっ



 ・・・尾形に対して、よく外に放れたな




 2球目。


 今度はインハイだ。


 見逃した !


 ズダンッ !


「ボール」


 156キロ。


 ・・・だが、いいコントロールだ




 3球目。


 またアウトロー。


 ・・・少し内側か


 ズダンッ !


 空振り。


 156キロ。



 打たれる気がしない。

 スイングの軌道がボールにまったく合ってない。



 ・・・そうかっ !


 軌道が違いすぎるんだ。

 ずっと和倉のストレートを見て来た、キャッチャー尾形の目が、西崎の軌道についていけない。


 だから西崎はストレートしか投げない。

 いや、これも大沢の配球だ。



 1ー2ワンエンドツー



 ・・・さあ、ラストボール




 4球目。



 ・・・ん ? 真っ直ぐじゃない



 まさかのスライダー



 が



 曲がらない。



 ・・・棒球



 尾形が慌てて体の回転だけで、バットを合わせた。


 コンッ !

 

 とても快音とは言い難い打球音を残して、ボールはレフト方向に高々と舞い上がった。


 島がどんどん下がって行く。


 ライトから見る限り、打球はファールにしか見えない。


 しかし、島はフェアグランドを背走していた。


 ・・・まさか



 島が真上に顔を上げながら足を止めた。



 打球は遙か上空。



 ・・・ファールだろ



 ・・・ ?



 突然、ボールが島のすぐ近くに落ちてきた。


 島はボールを追わない。



 線審が頭上で右手をグルグル回している。



 ホームラン ?



 ポールに当たったのか ?



 ツーラン ?



 逆転 ?



 された ?


 

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