南大守備網

 

 勝てば秋の神宮大会。


 場内は異様な空気に包まれていた。


 ・・・スタンドの熱気がハンパねー

 


 三度の全国制覇を誇る名門中京大も、その栄光は遠い昭和での話。

 近年の大学野球は九州六大学の雄、名峰大の独壇場であった。

 名峰大は神宮ではもう5年以上負けがない。

 そして、その名峰大に対して、何とか善戦らしき戦いが出来ていたのは、最近では東京六大学か東都六大学の代表だけであった。


 そんな中、春の神宮の準決勝で名峰大相手に1ー2の大接戦を演じた古豪、中京大。

 あの王者を追いつめた主役が和倉であり、司令塔の尾形だった。

 今や和倉成亮は大学球界の至宝だ。

 次こそ名峰大の連勝を止める。

 地元名古屋はその期待感で異常に盛り上がっていた。

 

 そこに立ち塞がった静岡の新参者。

 5回を終わって両チーム無得点。

 南洋大のヒットは2本。

 そして王者は4番のバントヒット1本のみ。

 緊迫した投手戦。

 そして数々の好守、美技。

 球場内のボルテージは否が応でも上がる。


 高校野球は国民行事。

 しかし大学野球はあくまで学生のイベント色が強い。

 応援する学生たちは選手との距離感も近く、結束も固い。

 野球のルールも分からない若者さえ声を枯らして、仲間に声援を送り熱狂する。

 

 ・・・トップアイドルの野外ライブか



 6回。


 8番バッターが右打席に入った。


 ここから右が5人続く。


 しっかり引きつけて、ピッチャー返し。

 下位と言えども、強打者揃い。

 基本は徹底的に植え付けられている。


 左のサイドスローで、リリースポイントが掴めない。

 フロントドア、バックドアを繰り返す精密なコントロール。

 打者の意表を突く絶妙な配球。

 どれも打者の目を欺く為の技術だ。


 しかし、ボール球であろうが、芯で捉えられれば関係ない。

 要するに選球に拘らなければいい。

 元々、球速は遅い。

 ピッチャーに向かってボールを強く叩く。

 そう考えればそれほど怖いピッチャーじゃない。


 そんな開き直りが、古豪の打線を目覚めさせたか。

 三枝は強烈な打球に襲われ出した。

 簡単に捌けるような打球速度ではなかった。


 だから三枝は打者の強襲からはすべて


 “ 逃げた ”


 逃げる事でセンターに抜けそうな強烈な打球を、水野とコータに全部捌かせたのだ。

 

 6回表。


 三枝はツーアウトからセンター前にヒットを許すが、結局尾形に回る前で中京大の攻撃を断ち切る事に成功した。


 ショートゴロ2本、セカンドライナー1本。


 中京大の攻撃は、南大守備網にまんまと引っ掛かったのだ。


 ファースト西崎効果。


 まさに大沢の読み通りの試合展開となっていた。

 

 

 6回裏。


 和倉もある意味開き直っていた。


 9番島に対しては、全て高速スライダー。


 1番コータ、2番力丸に対しては全てストレート。


 気迫の三者三振ショーを見せつけた。



 6回を終了。

 依然として均衡は続いていた。


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