行き当たりばったり

 

 四回裏。


 初球、2球目、3球目。


 力丸には高速スライダー攻め。


 3球目には148キロを計測。


 ・・・完全にモノにしやがった


 バッターボックスでは、ストレートにしか見えないかも知れない。

 そのまま落ちなければストレート。

(打席では浮き上がって見えるが・・・)

 ブレーキかかって落ちればスプリット。

 右打者に突然、襲いかかってくるのがスライダー。


 完全スライダー攻めと分かっていれば、対応のしようもある。

 しかし、力丸の頭の中にはストレートもスプリットもある。もしかしたら唯一俺に投げたチェンジアップだってあるし、和倉はツーシームも持っている。

 一瞬でも迷うのがバッターだ。


 1ー2からの4球目。


 力丸は153キロのストレートをカットした。


 ・・・さすが、いい目してる


「ナイス、龍平 !」


 試合開始からずっとダグアウトの最前列に陣取っているヒロが、嬉しそうに声を張り上げた。


「やっとカット出来たな」


「そうだね。次スプリット来るよ」


 ・・・なぜ わかる?



 5球目。


 外角に145キロのスプリット。


 パァーン !


 予測していたはずの落ちる球に、力丸のバットが空を切った。


「・・・惜しい」


「なぜ、スプリットと思った ?」


 自分の事のように悔しがっていたヒロが、俺の質問に不思議そうな顔を向けた。


「カットしたから」


「ストレートをカットしたら、スプリットがくるのか ?」


「たぶん」


 ヒロは悪戯っ子の目で答えた。


「なぜ ?」


「わっくんのスプリットは、ストレートを打とうとするバッターに対して、絶大な効果を発揮するから」


「・・・」


「浮き上がって見えるボールの後に、落ちるボールが来たら、消える魔球になるでしょ」


 ・・・そうか


「なぜ、みんなにそれを伝えないんだ」


「全員スプリット狙い。でもそれぞれがいろんな狙い方をした方が、わっくんを迷わす事が出来るでしょ」


「いろんな狙い方って ?」


 水野が初球、2球目とストレートを見逃した。


 ワンボール、ワンストライク。


「シモはスプリットを感じ取ろうとしている。そんな事を出来るのシモだけ。コータとキャプテンと秋時は、最初からストレートを見ていない。ひたすらスプリットの軌道でスイングしている。龍平、ジョー、島っち、凌はツーストライクからのストレートはカット。わっくんとすれば、全員がスプリット狙いなのか、キャプテンとか秋時が実はストレートを待っているのか、まだ確信持てないでいると思うよ」


 ・・・なるほど


 1ー1から3球目。


 147キロのスプリットを水野が一塁線に転がした。


「ファール !」


 ・・・ん ?


「ひとり、抜けなかったか ?」


「ああ、トーヤのこと ? トーヤはたぶん・・・行き当たりばったり。4番が適当なんで、余計ピッチャーは混乱するよね」


 ・・・なるほど


 ヒロは妙に楽しそうだ。

 おそらく、和倉と各バッターの勝負を楽しんでる。

 今だって和倉vs水野に、目をキラキラさせている。


 4球目。


 内角低めいっぱいのスプリットを、水野が捉えた。


 見事なセンター返し。


「よしっ !」


 ・・・148キロの消える魔球を打ちやがった


「これでキャプテンは、スプリット狙い確定って思ってるね、わっくん」


「じゃ、あとは西崎と大沢だな」


「シモだって未確定かも」


 ヒロがニッコリと白い歯を向けた。


 

 ワンアウト一塁。


 そして“ 行き当たりばったり ”の登場だ。


 

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