お前ら何遊んでんだ

 四回表。


 1番から3人並ぶ右打者。

 ここが今日のポイントか。


 先頭打者の初球、いきなりのジャストミート。


 ・・・制球ミス ?


 三塁線に強烈なライナー。

 打球が三塁ベースに当たって跳ねた。


 ・・・ げっ !


 力丸が飛んだ !

 掴んだ !

 回転した !

 もう投げた !


 送球が地を這った !

 西崎の手足が伸びた !

 すくい上げてバタンと倒れた !


「アウトォォォー !」


 塁審が右手を突き上げた。

 何故か、満面の笑みで・・・


 三塁側のスタンドが爆発した。

 ダグアウトでヒロが飛び跳ねていた。


 ・・・マジか


 ・・・力丸の三半規管すげーな

 

 西崎が蹲って、ハムストリングスをさすっていた。

 

 ・・・あいつは意外と股関節が硬い。


 泣きべその西崎をコータが慰めていた。


 西崎に駆け寄った三枝が、本気で心配していた。

 

 コントロールミスを痛打されて、それを守備に助けてもらうと、ピッチャーはとにかくホッとするものだ。

 同期の超美技より、ピッチャーでもある先輩の怪我をまず心配する所が、いかにも体育会系だ。


 フォーム改造後の三枝は、まだコントロールミスも多かった。

 四死球も多かった。

 三枝がさらに進化するのは、プロ入り後スクリューを覚えてからだ。

 落ちるウィニングショットが、投球の幅を広げ、さらに制球力に磨きがかかったのだ。

 

 三枝は続く2番バッターをナチュラルシュートでセカンドフライに打ち取った。


 ツーアウト。


 そして3番の尾形。

 やはり攻守のキーマンはこの男だ。

 この秋、確実にドラフトで上位指名されると言われる中京大の心臓。


 このあと左が続く中京打線。

 初対戦の左打者が、三枝を攻略するのは難しい。

 もちろん、尾形もそう考えている。


 ・・・尾形は一発狙いか 


 となれば外角攻めだ。

 


 初球。


 外角低めのスライダー。

 最後の最後にベースの角を掠めるバックドア。


「ボール !」

 

 僅かに外れた。



 2球目。


 初球よりやや内よりのコース。

 しかし、これはシュートだ。

 これも見送った。


「ボール !」


 ・・・さすが ・・・釣られない


 ツーボール。


 やはり外角攻め。


 意外と大沢はセオリーを外さない。

 フロントドア、バックドア。

 外角低め。

 対角線の繰り返し。

 

 シンプルに確率のいい方を選ぶ。

 そしてあとは運まかせ。

 しかし、その運の確率をあげるのが、守備力。

 大沢もヒロも、そのあたりの考え方はいたってシンプルだ。

 

 

 3球目。

 

 また、外角。

 今度はカーブだ。

 

 尾形は待ち切れないような、腰の伸びたスイングになった。


 コンッ !


 それでも尾形は、きっちり当てて来た。


 ライト線。


 俺はすでにダッシュしていた。


 打球が意外と高くあがった。


 ・・・間に合うか


 ・・・わっ !


 飛ぼうと思った瞬間、視界に何かが見えた。


 飛ぶのを躊躇した。


 ・・・コータか ?


「ライト !」


 ・・・えっ、水野の声


 目の前のコータがしゃがんだ。


 しかし、俺も動きを止めてしまった。


 ・・・しまった


 お見合いだ。

 もう二人とも動けない。


 二人の真ん中にボールが落ちて来た。


 そこに何かが突っ込んで来た。


 ・・・ ?


 西崎がダイビングキャッチをしていた。


「アウト !」


 ・・・マジか


「お前ら何遊んでんだ」


 西崎が切れ長の目を細めて言った。


「・・・出しゃばりました、シモさんスミマセン・・・でもトーヤさん、さすがッス」


「おっおうよ」


 コータにおだてられて、西崎はすでにゴキゲンだった。


 ・・・しかし、二人ともなんちゅー守備範囲


 とりあえずチェンジ。

 

 

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