シモボールはお前にやるよ
二回。
４番からの攻撃。
中京大は４番から７番まで左が並ぶ。
三枝と初対面の左バッターは、プロでも打てない、と俺は思う。
俺なんて今だにストライクとボールの見極めが出来ない。
俺の動体視力に問題があるのか、とにかく三枝のボールを大沢が配球すると、ストライクがボール球にしか見えない。
案の定、三枝は４番５番６番を三者連続三振に仕留めた。
これで６人連続だ。
強打の中京打線を完全に翻弄していた。
・・・すごい
その裏。
和倉は大沢に対してもストレートを散らせた。
3球目のアウトハイのボール球は157キロを計測。
ウェイティングサークルで見ていた俺の目には、ボールの残像しか映らなかった。
・・・困ったもんだ
2ー2からの５球目。
インローに沈む146キロのスプリットに、大沢のバットは止まった。
「ボール !」
・・・フルスイングのバットをよく止めたな
これでフルカウント。
６球目。
さっきと同じコース。
ブォン !
人間とは思えない凶暴なスイング・・・が空を切った。
156キロのストレート。
ボールは大沢のバットの20センチほど上を通過していた。
ワンアウト。
「６番、ライト下村」
スタンドがちょっとだけ騒めいた。
春の胴上げ投手の記事以来、俺も少しは有名になったようだ。
まあ、同情票がほとんどだけど、アナウンスされてスタンドがシーンとなるよりはマシか。
俺は真っ直ぐ打席に入って、和倉と目を合わせた。
・・・よお、久しぶり
・・・ずいぶんとご立派になられて
和倉の表情は読めないが、俺に向かって一度頷いて見せた。
・・・お手柔らかに
初球。
真ん中低め。
・・・いきなりスプリットか ?
ストレートの軌道ではない気がした。
ボールが急速に逃げて行った。
「ボール !」
・・・スライダーじゃん
146キロ。
・・・はやっ
和倉が一瞬、口元を緩めた。
・・・このやろ !
再会の挨拶か。
わかったよ、シモボールはお前にやるよ。
ちょっと嬉しかった。
爽やかな気分だ。
・・・なんて、浸ってる場合じゃないな
２球目。
アウトローのストレート。
体重移動だけでボールをカットしてみた。
パァーン !
「ストライク !」
155キロ。
・・・当たんねー
3球目。
インコース。
泳ぎ気味にボールをすくった。
打球が一塁線を転がった。
「ファール !」
147キロのスプリット。
スプリットのような気がした。
俺はモノに出来なかったが、お前のスプリットは研究し尽くしたんだ。
お前の球道なんて、夢を見るほど脳に染み込んでんだ。
ストレートさえカット出来れば何とかなる。
・・・かも
４球目。
フワッと来た。
・・・これは・・・何 ?
慌ててカットしようとバットを出したら、ボールが沈んだ。
「ストラックアウト !」
ストレート７割。スプリット２割。スライダー１割。
俺の想定にチェンジアップはなかった。
・・・クソっ
続く暮林はやはり、西崎や大沢と同じ攻めだった。
ストレートを散らせた配球。
最後は155キロのアウトハイ。
やはりカットさえさせて貰えなかった。
これで水野から五連続三振。
バットにも当たらねー。
三回。
三枝はワンアウトからデッドボールで初めてランナーを出した。
シュートがバッターの肘を掠った。
ワンアウト一塁。
ランナーを出したら、それこそウチの見せ場だ。
何せ守備力重視の布陣。
今日の内野には天才しかいない。
三枝は早速、スライダーをショートに打たせた。
6ー4ー3。
ゲッツー成立。
ゲッツーを狙って内野にゴロを打たす。
そんな神技、ヒロだけのモノだと思ってた。
ランナーを出すたびに、四苦八苦していた俺にはとても信じ難い芸当だ。
三回裏。
ストレートと高速スライダーでカウントを整え、決め球は高速スプリット。
これが本来の和倉の配球だ。
鷹岡も島もそのパターンで三球三振だった。
コータは初回に続き、スプリットを捉えたが打球はセカンドの正面を突いた。
三者凡退。
三回を終わって0ー0。
ヒットは両軍合わせてコータの一本のみ。
“ 勝てば神宮大会 ”
・・・どうなる事やら
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