島&ジョーの一発
もはや浜体大も強敵ではなかった。
優勝を決めた試合。
9回、最後にマウンドに立ったのは桜町だった。
桜町は高校時代から磨いてきたスローカーブをアウトコースに丁寧に突いて、強打の浜体大打線を3人で退けた。
きっちりと春のリベンジを果たし、胴上げ投手となったのだ。
“ チーム一丸となって楽しみ合える野球 ”
水野キャプテン率いる南大野球の価値は、常に勝敗とはかけ離れた所にあった。
“ 仲間たちと気持ちよく汗を流してスッキリする ”
学生スポーツは心身の健康維持が目的なのだから、勝敗に大した価値はない。
この頃はもう誰も、この青臭い深町イズムにも、何の違和感も感じなくなっていた。
こうして南大は無欲の完全優勝を果たしたのだ。
リーグ戦ではヒロや西崎が完封しても、誰も驚かなくなっていた。
ヒロが二度、西崎が一度ノーヒットノーランを達成する無敵ぶりだった。
さらに三枝が、二人に負けない投球を見せた。
東海リーグの奪三振のシーズン記録を、塗り替える快投を演じて見せたのだ。
打つ方では1番辻合、2番力丸、3番水野、4番5番は大沢、西崎のジャンケン制。
この固定?された上位打線は、もはやリーグ戦ではやりたい放題だった。
そして俺も6番DHで固定された。
あの
守備でピッチャーを助ける選手が優先されるチーム体制で、DHに固定されるとなるとそれなりのプレッシャーはあった。
しかし、そんな堅苦しい考えに凝り固まっている自分がアホらしく思える程、南大は楽しい野球を展開していた。
東海・北陸・愛知三連盟王座決定戦。
各リーグ1、2位の6チームによるトーナメント。
これを制すれば神宮大会に進める。
東海リーグ1位の南洋大はシードされた。
北陸リーグ1位金沢星陵大と、愛知リーグ2位名祥大の勝者と準決勝を戦う事になった。
そして準々決勝で、金沢星陵大を延長戦の末に制した名祥大学が準決勝に勝ち進んできたのだ。
トーナメント準決勝
名祥大打線に対して、ヒロのピッチングは圧巻だった。
80キロ、100キロ、110キロのナックルが、嘲笑うかのように打者のバットをかい潜った。
ナックルボールは、ピッチャーも予測出来ない変化をするのでコントロールするのが難しい。
同じ理由でキャッチャーも捕球が難しい。
これがナックルボールの欠点である。
だから、ナックルボールが自在にコントロール出来て、キャッチャーがそれを捕球出来れば、それは無敵の魔球となる。
全力で投げる必要がない分、ピッチャーはあまり疲れないし肩、肘への負担が少ない。
長いイニングを投げる事も連投も可能になる。
しかし南大打線も、葛西という名祥大のエースの高速シンカーに苦しんだ。
右のアンダースローにして速球派。
140キロを超える浮き上がるストレートと135キロのシンカー。
この葛西に対しては珍しく水野、大沢、西崎の3人がまったくタイミングが合わなかった。
3人が揃いも揃ってお手上げなんてピッチャーはチーム史上初である。
ある意味チームは動揺する。
その沈滞ムードを一変させたのが島だった。
6回、皆が手を焼いていた高速シンカーを、ライトスタンドに放り込んだのだ。
人生初ホームランがここで飛び出した。
しかも流してスタンドまで持って行った。
チームは一気に盛り上がった。
島も暮林もとにかく変化球打ちが上手かった。しかも島は流し打ちのスペシャリストとも言われていた。
島には内緒にしてあるが、このホームランは、俺の野球人生の中で最も嬉しかった一発だった。
さらに8回、ツーアウトからフォアボールで出塁した俺のあと、今度は暮林がセンターに放り込んだ。
やはり高速シンカーだった。
もともとパワーは俺以上、やはり暮林の変化球打ちは一級品だった。
これで3ー0。
ヒロは7回までを2安打に抑え余裕の降板。
抑えに登板した大石が、8回9回を6人で完璧に抑えた。
100キロに満たないナックルと130キロのフォーシーム。
そのあとに出てくる大石の150キロなんて、誰も打てないだろう。
南洋は名古屋の強豪、名祥大を3対0で下し、決勝に駒を進めた。
大学野球の夢の舞台。
秋の神宮大会まであとひとつ。
しかし
ここであの男が登場して来たのだ。
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