ごきげんよう
のちに岳父となる(今は他人に戻ったが)天野泰誠教授が何故、来橋教授を紹介してくれたのか。
俺が警察官に向いているとでも思ったか。
それとも哲学者の気まぐれか。
ずいぶんと後に訊いた事があったが“ 来橋くんとは馬が合ったから ” と意味不明の答えしか貰えなかった。
実際、この頃 “ 南大遠州会 ”という南洋大の教授会主宰の野球部後援会があり、天野教授や来橋教授、医学部の日比野教授などが様々なサポートをしていたようだった。
南洋市はありとあらゆる街の有力者、有識者が一体となり“ 街の健全化 ” や “ 大学の知名度アップ ” 更には “ 卒業生の進路 ”にまでサポート体制が及んでいたのだ。
こんな所にも秋庭社長や久住本部長の周到性が伺えた。
俺は天野教授に勧められるままに、来橋ゼミに席を置いた。
研究テーマは「“ 起訴、起訴猶予、不起訴 ” 担当検事の着眼点」
この推理小説のようなゼミに何度かは出席したが、やはり堅苦しく小難しい内容で、野球の事で頭がいっぱいだった俺には苦痛な時間だった。
それでも続けられたのは天野教授への義理立てと、そのクラスにその娘がいたからだろうか。
「ごきげんよう」
一度面識があったせいか、祥華は教室で気軽に挨拶を寄越して来た。
・・・ごきげんよう ? 皇室か
「ずいぶんと不似合いな所にいるんだな」
「ここが ? そお ?」
祥華は驚いたように首を傾げた。
きれいな顔立ちをした女だった。
まるで、気高い中国人のように自信に満ちている。
何ひとつ自信の持てなかった俺は、正直気圧されていた。
“ 水野を見に来ていた女 ”
すぐにそう思い、無意味に臆してしまう自分が腹立たしい。
「
・・・
「
・・・先に上を覚えろよ
「勿論、呼び名を決めるためよ!」
「
「だめよ。・・・タカさんでいい ?」
・・・妙に馴れ馴れしいな
「俺はなんて呼べばいい ?」
「天野っち」
「カンベンして・・・なんて名前 ?」
「
「そのままそう呼んでもいいか ?」
祥華は何も言わずに無表情で頷いた。
その後すぐに来橋教授の講義が始まったので、自己紹介はそこで途切れた。
そして祥華とは秋のリーグ戦が終わるまで、ほとんど会話する事もなかった。
俺がゼミをサボってばかりいたし、たまに出席しても祥華の方から話しかけて来る事がなかったからだ。
しかし俺はひと目で魅かれていた、と思う。
ただこの時の俺はレベルアップしていくチームに付いていくのに必死で、ゼミどころではなかったし、正直臆したままだった。
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