スライダーは縦に切る

 右バッターが腰を引いて見送った。


 初球のスライダーが、ド真ん中に入った。


 1ストライク。


 147キロ。


 ・・・なるほど


 怖い相手ではあるが、確かにビビる相手じゃない。


 


 2球目。


 内角に90パーでギリ外す。


 ・・・なるほど、やっぱ大沢って凄いな


 力を抜いたテイクバックから、腕を振り切る事だけを意識した。


 ・・・狙い通り


 バッターは泡食ってバットを出し、そして止めた。


「ストライク !」


 ハーフスイング。


 151キロ。


 スタンドが騒めいた。


 ・・・なるほど


 ・・・楽しい


 ・・・クセになりそうだ


 しかし俺のマウンドはここまでだ。


 2ストライク。


 俺は一度深呼吸をして、ダグアウトを見た。


 全員が身を乗り出すように俺を見ていた。


 ・・・クソっ


 見るんじゃなかった。


 ヒロが泣いてやがる。


 鷹岡が帽子で顔を隠してやがる。


 深町さんが背中を向けてやがる。


 ・・・こみ上げて来やがる


 


 3球目。


 外角低めのスライダー。


 俺のウィニングショット。


 そしてラストボール。


 “ スライダーは縦に切る ”


 余計な事は意識せず、そこだけ思って投げた。


 思ったよりボールが右に行き、思った以上に左に滑った。


“ パンッ ”


 大沢のミットが乾いた音を起てた。


「ストラックアウト !」



 150キロ。



「ゲームセット !」




 大沢は捕球姿勢のまま動かなかった。



 俺はその姿をしっかりと目に焼き付けた。


 

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