一発食らえば同点

 大沢がマウンドで待っていた。


「監督は、プレッシャーで俺を殺す気か ?」


「いや、おれが監督に言った。すぐに賛成してくれたけど」


「何故 ? お前ならわかるだろ。俺にどんだけブランクがあると思ってんだ。あの打線なら3点なんてあっと言う間だ」


「ブランクは1時間半くらいか」


「・・・アホか。試合前のあんな遊び」


 “ ハリーアップ ! ”


 アンパイアが叫んだ。


 

「じゃ、その遊びモードで行こう」


 大沢が背を向けた。


「待てよ、あんなんで通用するのか ?」


「西崎がマウンドを譲ったんだ。自信持て」


 ・・・自信 ?


 ・・・無理


 俺は投球練習を始めた。


 この球場はスコアボードの他に、バックネットの右の方にも球速が表示される。


 しかも投球練習も・・・


 137キロ、135キロ、139キロ、137キロ....


 ・・・こんなもんか


 何だか相手ダグアウトが怒ってる気がするのは気のせいか ?


 ・・・ネクストサークルのバッターも怒ってねーか ?


 しかも1番からじゃねーか


「プレイボール」


 ・・・左バッターが俺を睨んでいるぞ


 ・・・知ーらね



 大沢のサイン。


 90パーのストレートをインハイ ?


 ・・・知ーらね


 俺はコントロールだけに集中した。


 しかし・・・


「ボール」


 かなり上に逸れた。


 143キロ。



 2球目。


 80パーのストレートをインハイ。


 ・・・要するに力むな、ってことね


 テイクバックをきもーち小さ目にした。


「わ!」


 いきなりぶっ叩かれた。


 打球がライナーでライトポールの右に突き刺さった。


「ファール !」


 ・・・


 ・・・キョワイよー



 3球目


 90パーのストレートをインハイ ?


 ・・・マジか


 テイクバックの時、やや胸の張りを大きくした。


 ・・・しまった !


 ボールが中に寄っていった。


 バッターはしっかりと引きつけて、きれいにミートした。


 強烈なライナーが一、二塁間のど真ん中を割った。


 ・・・それ見ろ ・・・わっ !


 辻合がライト方向に飛んだ。


 ・・・すごっ、つーか高っ


 ・・・どんだけ飛ぶよ


 しかし、打球は


 辻合のグラブを掠めるようにして、ライト前の芝を抉った。


 ・・・ ?


 芝に落下した辻合の先に、大きな影。


 ・・・ジョー ?


 猛然と突っ込んで来た暮林が、ショートバウンドで打球を掴むと、一塁に地を這う送球。


 ファーストの東山が懸命に伸ばしたミットに吸い込まれた。


「アウト !」


 ・・・ライトゴロ


 ・・・左の1番バッターを


「しゃあー !」


 俺は思わず叫んで、暮林に向かって拳を突き上げていた。


 暮林も照れくさそうに小さくガッツポーズ。


「グッジョブ、ジョー」


「ジョーさん、ナイス」


「ジョー、カッケー !」


 グランドのあちこちから声が飛び交った。


 ・・・くそったれ !


 助けてもらってばっかじゃねーか、俺。


 今のは完全に失投だった。


 要するにコントロールだ。


 大沢のミットだけに集中するんだ。



 しかし、続く2番バッターへの初球も甘くなった。


 145キロの低めのボールをセンター前に弾き返された。


 足元を襲った打球に、一瞬俺の反応が遅れた。


 ・・・くそっ、捕れた打球だった


 


 ワンアウト一塁。


 そしてこの試合、西崎からタイムリーを打っている3番バッター。


 初球からスライダーを3球続けた。


 141キロ。140キロ。143キロ。


 スリーボール。


 ・・・ストライクが入らん



 4球目。


 100パーでど真ん中のサイン。


 しかし、147キロが外角低めに僅かに外れた。


 フォアボール。


 ワンアウト一塁二塁。



 そして4番バッター。


 一発を食らえば同点。


 ・・・どうすりゃいいんだ?


「タイム!」


 大沢が駆け足でマウンドにやって来た。


 ・・・そうか


 ・・・やっぱり交代だよな


 


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