9回裏

 浜松体育大戦。


 スターティングラインナップ。


 1番 セカンド  辻合

 2番 サード   力丸

 3番 ショート  水野

 4番 ピッチャー 西崎

 5番 キャッチャー大沢

 6番 ライト   下村

 7番 センター  暮林

 8番 ファースト 東山

 9番 レフト   島


 ちなみに大沢と西崎は毎回、ジャンケンで4番を決めていた。



 確かに浜体大は東海リーグでは、次元が違っていた。

 攻・走・守、すべてにハイレベル。

 この日先発のエース、布藤もプロのスカウト注目のピッチャーだ。

 そして王者としてのプライドもあるだろう。

 南洋大を全力で倒しに来た。



 しかし、南大のこの打線はやはり凄かった。


 特に辻合、力丸、水野がとにかくうまい。


 何がうまいかって、野球が上手い。


 球種を読む。

 ボール球に手を出さない。

 際どいコースはファールで逃げる。

 野手の間を狙う。

 スキあらば進塁する。

 しかも一発もある。


 ただ、強くぶっ叩くだけの西崎、大沢、オレ、暮林とはモノが違った。



 初回


 力丸がフォアボールで出塁すると、いきなり二盗三盗。


 水野のスクイズであっさり先制した。


 四回には水野のソロホームラン。


 六回に同点に追いつかれると、七回には水野の二点タイムリーで突き放した。



 西崎は本当に打たせて取るピッチングをしていた。

 ヒロや三枝ほどの制球力はないが、何せ球種が豊富なので、打者を翻弄出来る。

 そして1イニングに1、2球だけ投げる150キロを超えるストレートが効果的だった。


 この効果的な配球は、すべて大沢の仕業であろう。


 わざとらしく“ シモボール ”と名付けたあまりキレの良くないスライダーも、大沢の配球の妙が内野ゴロの山を築かせていた。



 九回表


 俺と暮林の連続ツーベースで5点目が入った。


 5ー2


 八回まで84球の省エネピッチングの西崎には、3点もあれば十分であろう。


 あいつの事だから、最終回に155キロのストレートをバンバン投げて、初優勝を三者三振で締めて、胴上げ投手ってシナリオだろう。



 九回裏


 ライトのポジションに着いた俺のところに暮林が近づいて来た。


 暮林にしては珍しくニヤけている。


 ・・・まあ、俺だって夢みたいだけどな


「どうした 、ジョー ?」


 暮林はニヤニヤしながら、内野を指差した。


 見ると西崎がマウンドを通り過ぎて、セカンドの辻合とグータッチしていた。


「何やってんだ 、あいつら ?」


 西崎はそのままセンター方向へ歩き出した。


 ・・・


『九回裏、南洋大学の守備の変更をお知らせします』


 ・・・ん ?


『ライト、下村に代わり暮林、センター、暮林に代わり西崎』


 ・・・


『ピッチャー、西崎に代わり下村』


 ・・・マ、マジで ?


 


 


 

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