わけわからん

 春のリーグ戦最終節、浜松体育大戦。


 この三連戦で2勝すれば、念願のリーグ戦初優勝である。


 スターティングラインアップ。


 1番 セカンド  辻合

 2番 サード   力丸

 3番 ショート  水野

 4番 キャッチャー大沢

 5番 センター  西崎

 6番 レフト   下村

 7番 ライト   暮林

 8番 ファースト 東山

 9番 DH    鷹岡


 鷹岡のアナウンスでスタンドが湧いた。


 南洋大のオーダーがほぼ固定されつつあった。

 俺も何とか試合で使って貰えていたし、打点は20ほどあげていたので、最低限の役割は果たせていたのだろうか。

 と言っても、このチームで6番を打てば、打点は勝手に稼げてしまうが・・・


 ただ深町監督は出来るだけベンチ入りメンバーは使おうとするので、途中で交代する事も珍しくなかった。


 結局、島のポジションを奪った形となったが、試合後半には島と交代する事が多かったし、俺がDHになる場合もあった。


 DHには鷹岡凌という一年のライバルが出現していた。


 甲子園のスター選手で、ピッチャーだった。


 去年の甲子園でベスト8まで進み、ホームランも二本打っているスラッガーだ。


 仙台ゴールデンホークスの5位指名を蹴って南洋大に来た。


 横浜出身で同郷の水野に憧れて南大ここに来たらしいが、実は肩を壊していた。


 プロに進める身体ではなかったのだ。


 ここにも大人のお祭り“ 甲子園 ”の犠牲者がいた。


 当然かも知れない。


 去年の夏、県予選から甲子園で敗退するまで1500球以上投げている。


 控えピッチャーとの実力差が有り過ぎて、マウンドを降りる事が出来なかった。

 監督は何度も変えようとした。

 鷹岡自身が“ 大丈夫 ”と言い張って投げ続けたのだ。


 それでも無責任な監督と言うしかない。

 指導者、管理者をやる資格がない。

 厳しい言い方だが、それが事実だ。


 しかし、高校野球の世界ではよくあるパターンかも知れない。


 甲子園への思い、チームメイトへの思い、家族友達への思い。


 自分のカラダ、体力に自信があり意地もある。


 ここで“ 大丈夫じゃないです ”と答えるピッチャーはまずいない。


 延長十五回、257球。

 あの冷静なヒロでさえ投げ続けたのだ


 しっかりと交代を告げるのが、大人の務めである。


 もし、監督が深町さんだったら、鷹岡は甲子園を経験出来なかったかも知れない。

 しかし、子供に夢を与えるメジャーリーガーになっていたかも知れない。


 どっちが幸せかは人それぞれだ。


 しかし、成長過程の子供に40度のマウンドで投げられる球数が無限でない事くらい、小学生でも分かる。


 野球の世界は摩訶不思議である。


 何億も稼ぐプロのピッチャーは、プロのトレーナー管理の元、カラダのメンテナンスを万全に行ない、登板間隔、投球制限をしっかりと守る。


 一方、学校教育の場である筈の高校野球のピッチャーは未発育なカラダで数週間で1500球。


 わけわからん。


 鷹岡は現在、十メートルも投げられない状態にあるという。


 深町監督の指導のもとで、しっかりとリハビリをしていくしかないのであろう。


 バッティングは本物だ。

 振りが鋭い。


 ライバルだが、俺も心情的には応援したくなるような背景が鷹岡にはあった。





 やはり浜松体育大のレベルはこれまでの相手とは違っていた。


 先発した三枝は、六イニングを2失点に抑えたが、七回に桜町が打ち込まれてしまった。


 一挙、7失点。


 急遽、登板したヒロが後続を抑えたが、南大の攻撃陣も逆転する事は出来なかった。


 南洋大は7ー9で春のリーグ戦、初黒星を喫したのだった。


 残り二試合、連勝するしかない。


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