青春くせーセリフ

 超強者揃い。


 新人は年々レベルアップしていた。



 “ うかうかしてられない ”


 俺には危機感しかなかった。


 これは石神さんの仕業でも何でもなく、本人が自らの意思で南大を選んだ、そういうヤツも多かった。


 大学強豪校として、高校球児を惹きつけ始めたのだ。

 更に人が人を惹きつけ始めた。


 ドラフトを蹴ってわざわざ南洋大を選んだヤツが四人もいた。


 南大のグランドやトレーニング施設に惹かれたヤツがひとり。

 甲子園で活躍した水野のプレーに憧れて来たヤツがひとり。

 キャッチャー大沢に受けて貰いたい一心で来たヤツがひとり。

 そして、偶然西崎のショートを見て衝撃を受けたヤツがひとり。


 その内の二人が、後にホワイトベアーズの主力となる。



 春のリーグ戦を一週間後にひかえた、練習後のグランドで、俺は全員に肘の故障を打ち明けた。


 あちこちから息を飲む気配が伝わって来た。

 みんな身じろぎもせず真剣に聞いてくれた。


「野手として、打者としてレギュラーを目指すんでよろしく」


 俺は空気が重くならないよう、サラッと言った。


 ヒロが泣いていた。

 島の目は真っ赤だった。

 しかし、一番ショックを受けていたのは監督だったかも知れない。


「気付けなくて済まなかった」


 監督はそう言ったきり黙った。


「いや、隠していた俺がバカだったんです。スミマセンでした」


 俺は監督に向かって頭を下げた。



「エースで活躍出来ない分は、バッターでのノルマに上乗せしとくから」


 珍しく水野がそんな励まし方をしてくれた。


「青春くせーセリフだな、おい」


 それを西崎が茶化した。


「うるせー、そう言うお前はいつになったらエース級の活躍をするんだ !」


「ん ? 最近ウンコの出が悪くてどうも、いまいちなんだ」


 ・・・こいつはアホだ


 でもそこでやっとみんなが笑顔になってくれた。


 ヒロがいる。

 西崎がいる。

 桜町もずいぶんと成長した。

 そしてドラフト一位指名されたような怪物もいる。


 いつの間にか投手力もずいぶんとレベルアップしていた。


 このチームはかなり強い。


 俺はバッティングで、・・・DHでレギュラーを獲る。




 リーグ戦の初戦前日。


 予想以上に伸びた打球が、センターの頭を越えフェンスに当たったのが見えた。


 フリーバッティングではかなりいい感じだった。

 これまでとは、感触が違っていた。

 下半身の力がしっかりとボールに伝わる気がする。


「スタンスを五センチ狭く」


 大沢が呟いた。


 人のバッティングフォームに口を出す大沢も珍しい。


「五センチ ?」


「もっと良くなる気がする」


「そうか ?」


 俺は少しだけスタンスを変えた。


 桜町のカーブをうまく巻き込んで打てた。


 三球続けて、打球が外野の頭を越えた。


「うむ、いい感じかも」


「右足を上げず、体重移動だけで振ってみてよ」


「うむ」


 俺は大沢の言うとおりにした。


 俺は、大沢の観察眼を100%信じている。


 左足に“ 溜め ”て、右足は踏みこむだけのスイング。


 打球がきれいにセンター前に飛んだ。


 


「スタンスを狭めた分、スムーズに叩ける気がする」


「ま、いろいろ試せばいいさ」


「ああ」


「・・・サクラ助かった、サンキュ」


 俺は桜町に手を振った。


 桜町のストレートは球筋が素直なので気持ちよく振る事が出来る。

 だから自分のフォームとしっかりと向き合える。


「なんか、いい感じだった」


 大沢に言われて、すぐに対応出来る自分に感心していた。

 深町さんがそういう体を作ってくれたのだ。


「軸が安定すればシモの打球は、もっと速くなるさ」


 大沢はマスク越しに白い歯を覗かせた。


「そうか」


「だが・・・」


「ん ?」


「その安定が難しい」


 マスク越しの目がマウンドを指した。


 桜町の後、マウンドに見知らぬヤツが立っていた。


「また、ずいぶんと細いヤツ」


「左のアンダースローだ」


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