俺はどこを守る ?

 スタンス、構え、トップ位置、軸、重心、テイクバック、割れ、溜め、インパクト、フォロースルー。


 ひとつひとつをしっかりと意識する。


 インパクトの直前、左手を絞り込む。


 ボールを切るように左手を押す。


 フォロースルーはピッチャーの頭を叩き割るイメージ。


 とにかくボールを強く叩く事だけに集中する。


 やっと強く叩けるようになった。


 やはりバランスが悪かったのだ。


 これまでは右の握力、腕力が強過ぎた。


 小学四年の時、親父に無理矢理、左打ちに変えられた。


 あれからバッティングがつまらなくなった。


 ボールをぶっ叩けなくなった。


 “ いい選手はみんな右投げ左打ち ”


 そんな信仰めいた話は、今でも珍しくないかも知れない。


 ある意味虐待じゃねぇか、と思う。


 あの時から、グランドが楽しいゲームスポーツ場から修行の場に変わってしまった。


 利き手でリードするから、ミートがうまくなる ?


 右投手が大多数だから、球筋が見極め易い ?


 一塁が近いので内野安打が多い ?


 人より有利になって“ 勝つ”為にやっているわけじゃない。


 思いっきり打ちたいだけだったのに・・・


 そう、大沢や西崎のように。


 しかし・・・


 〜 左が手薄だからすぐ戻って来い 〜


 大沢、西崎、暮林、力丸。


 確かに南大は右のパワーヒッターが並ぶ。


 左は水野だけだ。


 ファーストを守る東山も左だが、当てるタイプの技巧派。


 左の俺が大沢や西崎の後に入れば、打線に厚みが増す。


 俺に長打力があれば、大沢や西崎が歩かされる場面も減るであろう。


 もういい歳なんだから、親父のせいばかりにしないで、左でぶっ叩けるようになればいい。


 深町監督の肉体改造メニューがそう教えてくれた。


 そして、ようやくぶっ叩けるようになった。


 ・・・しかし


 俺はどこを守る。


 守備力優先の南大で、サードの力丸、セカンドの桜町、ファーストの東山以上の守備が俺に出来るのか ?


 ・・・


 外野はレフトが島、センターが西崎、ライトが暮林。


 西崎がマウンドに立つ時は、センターに暮林が入り、ライトに柱木が入る。


 四人とも明らかに俺より俊足。


 ・・・関係ねー


 外野の守備は足よりも予測能力だ。


 ん ?


 あれほど投手復活を期待してくれている島、暮林、桜町とポジション争い ?


  ・・・とてもムリ


 じゃあ、代打の切り札か ?


 俺は一発に賭けるか ?




 俺はここ一年こんな事ばかり考えていた。


 ・・・アホだ


 三年の春から・・・


 東海地区リーグはDH制を導入した。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る