マウンド復帰

 東海地区はずっと“ 二強五弱リーグ ”と言われて来ていた。


 王者、浜松体育大と朝陽工業大の二強。


 他の五弱は、もう二十年近く神宮大会へ出場していない。


 秋のリーグ戦。


 南洋大はその二強と互角の試合をするまでに成長していた。


 最終節が終わり二位の朝陽工業大と勝ち点で並んだのだ。


 しかし得失点差で三位となり、トーナメントへの進出を逃す事となった。


 大沢がショートに入った試合の大量失点と、西崎がショートに入った分、登板数が減り失点が増えた事が致命的だったのだ。


 大沢の捕手能力と西崎の才能が浮き彫りとなり、結果的に水野の欠場が響いた形となったが、チーム全体の目線がはっきりとリーグ優勝を見据えるようになった三位だった。


 俺はボールもバットも握らない生活を半年以上続け、ひたすら深町メニューをこなした。


 秋のリーグ戦が終わる頃になると、すっかり身体が軽くなっていた。


 しかし体重にほとんど変化はなく、上半身の筋肉が削げ落ち、下半身が安定した感じだ。下半身に筋肉がついたと言うより、体幹が重くなった感覚。


 背泳ぎは、水泳部から本気で誘われるほど上達し、水泳にも自信がある大沢や西崎と勝負し、四泳法すべてに楽勝だった。


 二人に唯一、そして初めて味わった優越感だった。


 


 俺は秋からバットを振り始めた。


 そしてボールを投げ始めた。


 ・・・のんびり


 ・・・ゆっくり


 ・・・じっくり


 監督を始め、チームのみんなが俺のマウンド復帰を待っていた。


 だから言えなかった。


 深町監督は、肩の異常は一年休ませれば復帰出来ると言った。


 もちろん正しい判断であろう。


 しかし肘の異常には気付いていない。


 当たり前だ。


 レントゲンじゃないんだから。


 内側上顆炎。


 再建手術が必要なほど重篤な状態だ。


 大学生に再建手術なんて選択肢はない。


 メジャーリーガーじゃないんだから。


 医師はピッチングさえしなければ、野球は続けられると言った。


 投球動作の多い投手、捕手以外なら秋には復帰出来る。


 チームの投手事情が分かっているだけに、中々言い出せずにいた。


 高校時代、俺やヒロの控えだった桜町が投手に復活していた。


 五弱相手なら十分通用し、好投している。


 堅実な守備、堅実なバッティング。


 そして、ヒロを真似た丁寧なピッチング。


 ヤツも立派な二刀流だ。



“ シモが戻るまでのつなぎ役だから ”


 そう言って謙虚に笑う桜町を見ていると、余計に切り出せない 。


「俺は再起不能さ」


 そう言って、何度も切り出そうとした。


「そして春に、不死鳥降臨ってか」


 そこで島が混ぜっ返す。


「右のエース復活かぁ、怖えー怖えー」


 西崎が煽る。


 ・・・やべぇ、どんどん言えなくなる


 そして三年の春が来た。


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